株式会社イシダテック

株式会社イシダテックは、静岡県焼津市に拠点を置く機械メーカーで社員数は40名ほどと決して大きいとはいえない。しかし、戦後間もない1948年の創立以来、食品・医薬品業界向けの省力化装置をオーダーメイドで開発し続けてきた実績は、業界内で非常に高い評価を獲得している。皆さんが口にしている加工食品や服用している医薬品が同社の装置によって生産されている可能性はかなり高いといえる。

「『機械でできることは機械で。伝統の味を大切に』を合言葉に、どうすれば作業する人の手間を減らせるのかを追求し、新しい技術を取り入れながら様々な機械を生み出してきました。例えば、創業者である祖父はNASAの航空宇宙技術を活用することで、イカの内臓を切除する瞬間に急速冷凍して破らないまま分離できる機械を開発したのです」（代表取締役社長・石田尚氏）。

1950年にみかんの缶詰向けにシロップ注入器を開発し、第一号となる実用新案を取得してから累計特許は82、実用新案数も62に上る。このモノづくりのDNAは現在も脈々と受け継がれており、先進技術を積極的に取り入れた装置開発に挑み続けているのだ。例えば、漁港に次々と水揚げされコンベアで運ばれる冷凍カツオの種類や良し悪しを見極めるには、ベテラン作業者の経験と勘が不可欠だった。ここにAIを導入して魚種判定と良否判定を自動化する装置の開発に挑んでいる。スイスの発明家が開発した革新的な国際特許技術を日本市場に展開するため、スイスの会社とのジョイントベンチャー・AO Group Japan株式会社を設立。従来の超音波ナイフでは難しかった0.5mm幅の食品カットを可能にした装置の開発等をしている。

また、空間中・物体表面に存在するウイルスやバクテリア、カビ、化学物質を削減・非活性化する独自のソリューションを提供するEMT社の輸入総代理店となって、クリーンな環境を保つ空間殺菌ソリューションも提供。厳しい衛生環境が求められる食品製造現場への導入を進めている。

「当社が目指すのは、“お客様の成長に貢献するモノづくり”です。そのために必要であれば、先進技術にも積極的に挑戦し、活用の可能性を探っていきます。そこが、モノづくりの好きな社員にとって、魅力の一つになっているのかもしれません」（石田氏）。

同社が少数精鋭体制ながら画期的で顧客満足の高い機械・装置を開発できる背景には、「おもろいプロジェクト」の存在がある。その「おもろさ」の一つが先進技術への取り組みであるとすれば、「やりがいを実感しやすい」職場環境も挙げられるだろう。

同社が挑むプロジェクトのほとんどは、エンドユーザーから直接依頼されたものだ。しかも、営業からエンドユーザーであるお客様へのヒアリング、企画・設計・開発・実装まで一貫して引き受けるスタイルを採っている。
「それだけに、お客様との距離が非常に近いです。何に困っているのか、負はどこにあり、どのような機械をつくれば解決できるのか。お客様から直接聞いて設計、開発に落とし込めるため、何人もが介在した時に起こりがちな伝聞によるズレが発生しにくいと言えます。それに何より、自分が手掛けたものがお客様の成長に貢献できているという実感を得やすいです。お客様の喜びを直接耳にすることもありますし、スーパー等でお客様の製品を見かけた時、『自分がつくった装置で生産されたものだ』と誇らしい気持ちを味わうこともできます。こういった手応えや励みが、仕事のハリややりがいに繋がっているのだと思います」（石田氏）。

ただ、どれほど「おもろいプロジェクト」があっても、ベテランがその面白さを独占してしまっては組織の活性化は見込めない。その点、同社は若手にもどんどん機会を与え、任せてしまうという。
「経験上、いいやつが頑張れば、何とかなるんです。お客様のこと、仕事のことをしっかりと考えて、自分が何をすべきなのかを考えられる人間、そのためなら勉強等の努力も惜しまない人間が何とかしようと取り組めば。それに、当社には70年以上にわたって蓄積してきた知見があり、その共有財産を社員誰もが活用できる体制を整えているところでもあります。オーダーメイドであるため、全く同じ装置開発等はありませんし、変化を楽しめる人であれば、当社の“おもろさ”を実感してもらえるはずです」（石田氏）。

同社は、次代を見据えて様々な改革を進めている。現在、代表取締役社長を務める尚氏は大学院で経営工学を学んだ後、ロボティクスやAI等のデジタル技術を主体に顧客のDX支援を行う会社に入社。その後、2015年にイシダテックに入っている。入社当初は未経験の営業に悪戦苦闘することになるが、徐々に社内のDXを推進し、業務の効率化や属人化していた知見の共有化・組織知化を進めてきた。

「私が入社した時、様々なプロジェクトを通じて多くの知見が社内のあちこちに蓄積されていました。しかし、その知見はベテラン社員が保有しているもので、他の社員達には伝わっていないことに問題を感じていたのです。でも、ベテラン社員に自分のノウハウを後進へ継承してほしいといっても、誰にでもできることではありません。そこでまずは、これから習得していく知見を自分の中にしまい込むのではなく、全社共通のシステムに記録してもらうようにしました。それによって先人の体験を若手が追体験できるようにしたのです」（石田氏）。

業務改革だけに止まらず、営業体制や人事評価制度等の改革も進めている。しかも、その多くを若手社員に任せることで、会社や業務の自分事化を狙っている。

こういった変革は事業においても進めていくと石田氏は続ける。
「これまで製造機械は、人では持ち運べないものを運んだり、人には不可能なスピードでモノを切ったりする等、人間の筋力を拡張するものでした。でも、これからは脳や視覚、聴覚等を拡張する機能が加わっていきます。AIによる画像解析や音声認識等を活用するのもその一つです。そして、こういった世界はソフトウェアによって随時進化していくもの。だから、これまでのように機械をつくって売って終わりではなく、ハードを販売した後もソフトウェアの更新によって長くお付き合いが続くビジネスへと形を変えていく必要があります」

同社の事業はオーダーメイドであるが故に、これまでも変化に富んだ仕事環境にあった。ところが、これからはビジネスを取り巻く環境や社内環境等も大きく変わっていく可能性がある。そのため、「自分が関与することで何か変化を起こし、その変化を楽しめる」人を求めていると石田氏は語る。
「お客様の漠然とした要望の中から真に求めているものを見出し、それを形にするためにアレコレと思考の幅を広げていき、トライアンドエラーを繰り返す――そんな決まっていないことを楽しめる人であれば、やりがいを実感できるモノづくりを楽しめるはずです。会社は焼津にありますが、社員はアラスカへ行ったり、東南アジアへ装置を実装しに行ったりとグローバルな会社でもあります。だからぜひ、私達と一緒に“焼津から世界を変えていきましょう”」