株式会社アドバンスドナレッジ研究所

設計・デザインの世界に革新をもたらしたソフトウェアがある。株式会社アドバンスドナレッジ研究所が開発・販売する『FlowDesigner』――風の流れや温度分布を簡単な操作、驚異的なスピードでシミュレーションしてくれる熱流体解析ソフトウェアだ。とはいえ、こう聞いただけでは何がすごいのかピンとこないかもしれなので、もう少し詳しく説明したい。

気流シミュレーションソフトは、30年ほど前から存在している。しかし、操作するには、さまざまなパラメータを設定するなど高度な専門知識がいるため、流体力学や数値計算の専門家でなければ扱えない代物だった。そのため、設計事務所や建設会社、メーカーなどの設計・デザイン担当者は、シミュレーションの必要が発生するたび、専門家に計算を依頼しなければならず、この工程が開発期間を圧迫することが少なくなかったのだ。

たとえば、ICチップといった電子回路は動かすときに熱を発するので、チップ内の温度が上がり過ぎないよう、開口部の位置や数を工夫する必要がある。設計・デザイン担当者は、目標とする温度に抑えられるまで、仮説を立て、シミュレーションを依頼し、数日後その結果を見て微調整することを繰り返さなければならなかった。

ところが、『FlowDesigner』は難易度が高い条件設定を自動化しているため、３次元モデルを使ってチップ内の回路の配置を再現し、開口部の位置や大きさを決めた上で、風量や風の向きなど最小限の設定さえ行えば、わずかな時間でチップ内の温度分布を計算・表示してくれる。
「緻密な計算が求められる流体のシミュレーションでは、条件設定を間違うと計算が発散することがあるのですが、そこをソフトが代わりに行ってくれます。また、モデリングもマウスで簡単にできるなど、ユーザーインターフェースも入念につくり込んでいるので、専門家でなくても直感的に操作できるのです。もちろん、3DCADなどで作図したデータを取り込むこともできます」（代表取締役・池島 薫氏）

つまり、『Flow Designer』を使うことで、設計やデザインの担当者は、思いついたアイデアを現場でどんどん試すことができ、“質”を高めることに多くの時間を割くことが可能となるわけだ。

『FlowDesigner』が革新的なソフトウェアといえる理由が、もう一つある。それが、『逆解析』機能の存在だ。「逆」、つまり、得たい結論から条件を導き出す機能である。

先ほどのICチップを例に説明したい。たとえば、チップ内の温度を80度以下に抑えたいのだが、最初の設計を解析すると、冷却が不十分だと判明する。通常であれば、ここから設計者が試行錯誤し、さまざまな仮説のもとシミュレーションを繰り返して答えを導き出すのだが、逆解析機能を使えば、チップ内の温度を80度以下と条件設定することで、どこに、どのくらいの開口部を設ければいいのか、色の変化で示した「感度マップ」で把握することができるのだ。

「ベースとなる理論は、弊社取締役の桃瀬一成が、大阪大学大学院にいたときに確立したもので、それを5年間かけてソフトに実装しました。現在、日本、アメリカ、欧州で特許も取得しています」（池島氏）
逆解析のような機能を有する科学技術計算ソフトは、池島氏が知る限り、「他にはNASAやJAXAくらいにしかない」という。それほど画期的で最先端の技術なのだ。

また、逆解析機能は、単なる先端技術というだけでなく、ものづくりの現場で、すでにその実力を発揮してもいる。ヤンマー株式会社では農業機械エンジンルームの冷却問題を解決するため、ボディ開口部の最適化に使用され、宮崎県延岡駅では強風対策のための最適な植樹計画で活躍するなど、数多くの大手企業から高い評価を獲得し、90％以上というリピート率を達成しているのだ。

ただ、『FlowDesigner』の進化は、まだ終わったわけではない。随時、顧客の要望に応える形でマイナーチェンジするほか、年1回は、大幅なバージョンアップを繰り返している。
「2016年には、日建設計さんと共同で解析結果をヴァーチャルリアリティ（VR）で体感できるツールを開発しましたし、今後は、『FlowDesigner』をクラウドやWebにも対応できるよう改良を加える予定もあります。詳細は発表できませんが、センサーと組み合わせることで、熱環境分野で用途を拡大する計画も進行中です」（池島氏）

他に類を見ない革新的技術というだけでなく、今後の展開に大きな可能性を秘めたソフトウェア、それが『FlowDesigner』といえるわけだ。

『Flow Designer』の開発は、大きく２つのユニットによって進められている。一つは、熱流体解析や逆解析の理論をソフトウェアで再現するユニット。もう一つが、ユーザーインターフェースやモデリング、ポスト処理など、ソフトウェアの使い勝手向上などを担うユニットだ。現在、アドバンスドナレッジ研究所が必要としているのが、後者の技術者であり、具体的にはモデリング機能開発を任せられる人材だという。

「お客様の業種が広がるとともに、当社に寄せられる要望も多様化しており、現状のモデリング機能では対応しきれなくなってきています。そこで、モデラーの機能拡張を担ってくれる人、イチから一緒につくってくれる人が必要なのです」（池島氏）

GUIやモデラーは知っているが、熱流体解析についてはわからないという人でも全く問題はない。基本的にシミュレーションに関わる部分はそれを専門とするグループが担い、「UIやモデリングの開発メンバーが、流体力学の理論や数学のことまで理解する必要はない」と池島氏は続ける。

「もちろん、知りたいという好奇心は歓迎しますし、今後、研修体制を整えていくことも考えています。ただし、それよりも科学技術計算という領域で日本唯一のソフトウェア開発に携わることを面白いと感じられるかどうか、5年、10年と、じっくり腰を据えて自分たちの製品をつくり上げ社会に発信していきたいと思えるかどうかが重要です。すべて自社で開発しているので、日本を代表するトップ企業の担当者と直接意見を交わしながら開発できる醍醐味もあります。派遣も一切ありません。こういったところに魅力を感じられる人がいいですね。

また、課題に対して冷静に思考を巡らし、積極的に挑戦していけるマインドのある人、会社の仲間と協調しながら取り組める人でないと務まらないとも思います。正直なところ、短期的なキャリアアップを目的に入社を考えている人は望んでいません。

当社に骨を埋めるくらいの覚悟と思いのある人と一緒に、世界を目指していきたいと思っています。『FlowDesigner』はそのくらいのポテンシャルを秘めた製品です」（池島氏）