T4U株式会社

T4U株式会社に一歩入った時、包容力のある温かい空気を感じた。オフィスの空気が柔らかく、それでいて真剣に楽しみながら仕事をしているような雰囲気だ。<br /><br />これは、代表取締役の中橋氏にお会いした時、特に強く感じた。<br />T4Uという一風変わった社名の由来を尋ねた時のことだ。同氏は、Tは科学技術（Technology）、4Uは人と環境に優しく（Universe）、豊かで（Usefull）、先進的な（Unique）、使いやすい（Ubiquitous）という言葉を合わせたものだと説明した後、さりげなく笑顔で次のように述べた。<br /><br />「ただし、これは建前なのです。本当は＜Tea For You＞の略なんです。<br />システム開発は今3K労働になっています。辛くて厳しい労働条件の仕事として見なされているのです。そんなイメージを少しでも和らげてリラックスしてもらいたいという思いがあって、＜Tea For You＞という意味を込めているのです」<br /><br />会社の代表のやさしい思いやりが伝わってくるような言葉だ。システム開発というある意味閉鎖的な業務の中で、同社は何を目指そうとしているのだろうか。その点を中橋氏に説明していただいた。

企業は、どうしても得意分野をつくりたがる。<br />しかし、今後のシステム業界はもっと幅広い視野を必要とされることは間違いない。「フラットな世界」に象徴される情報システムサービスが広がるにつれて、サービスそのものが世界的な分業作業へと変わっていくからだ。<br /><br />その時、今後のシステム系の企業に必要なのは、一つの専門に固執することではなく、多面的にものごとを捉え、解決する手段を持つことである。様々なメンバーを抱え、それをうまく組み合わせることで情報サービスの多様化に対応していくことが求められるのである。<br /><br />T4U社がそのためのツールとしてもっているのが海外拠点である。すでに中国に3拠点、2007年中にはフィリピン、マレーシア、ネパールで拠点をつくることを目標とし、さらにヨーロッパへと広げていく予定である。<br />同社は、世界各地にある拠点へ開発を分散させることで多様化的なものを求める時代のニーズに応えようとしている。<br /><br />中橋氏はこう説明する。<br />「海外へ開発を分散させることは様々なメリットがあります。開発費用を抑えたり、期間を短縮したりすることなどです。ただ、それ以外にもいい意味でノウハウを共有できればと思っています。日本の方法論と外国の方法論には多くの違いがあります。どちらが良いか悪いかではなく、それを融合させることでいい意味で内部を活性化させたいのです」

ユビキタス（Ubiquitous Computing）の時代に求められる多面性。T4U社は海外にある拠点によってそれに対応するだけでなく、社内の人材にもそのスキルを身につけてもらいたいと思っている。<br /><br />今、日本のシステム系企業の多くは技術者を段階的に捉えている。<br />【オペレーター⇒プログラマー⇒システムエンジニア】というステップアップのプロセスをつくって、段階的に位置づけているのである。しかし同社はそうは考えない。オペレーターもプログラマーもシステムエンジニアもそれぞれ独立した別物だと捉え、その上で、同社はすべての人間がシステムエンジニアたることを望んでいるのだ。<br /><br />中橋氏はこう語る。<br />「情報システムはとても多面的なものです。どこかに特化するよりも、多面性を多面性として捉えて何でも対応できることが最良なのです。そこで、私は全員にSEになってもらいたいと考えています。それによって多面性を求める時代のニーズに応えられるような人材を育てていきたいのです」

同社は、多面性を求める時代のニーズに合うような人材を育てたいと考えている。もちろん、そのために社内外のSE研修などを積極的に受けさせている。<br /><br />しかし、全員が全員優秀なSEになれるとは限らない。あるいは、すぐに完成度の高い人材に育つはずがない。会社の中で、たえまなくお互いがお互いの技術を伝えあい、切磋琢磨して、初めて経験に裏打ちされた優秀な人材に育つのである。だからこそ、同社では優れたSEになるまでのプロセスを重要視している。技術を伝え合うこと、切磋琢磨できる環境こそが重要だと考えているのだ。<br /><br />「わが社では、単に技術があるからといって最高の評価をするわけではありません。どれだけ他の社員に自分の技術を伝えたかという『プロセス』の部分にこそ価値をおいているのです。そこがわが社が誇れる評価方法でしょうか。また、多面的なものへのニーズに応えるために大学院生へのインタンシップ制なども導入しています」<br /><br />同社は、ただ目の前の利益だけを追求する会社ではない。個としても魅力のある専門家をつくりだし、広義での社会貢献を可能にする構造を生み出すことを目指しているのだ。

T4U社の最大の魅力は多面性への適応と柔らかい社風ということになる。では、実際に中で働いている社員はどう感じているのだろうか。<br /><br />アプリケーションデザイナーの鈴木氏は2004年に中途で入社した社員だ。もともとPG、SEとしてシステム業界で活躍してきたが、それに飽き足らずに転職を決めた。同氏は当時のことをこう回想する。<br />「前職では目の前の仕事を機械的にこなすだけでした。それが嫌になって転職をしたのです。転職にあたって、私はクライアントと直接やりとりをして、自分で提案をしていける場所を探していました。そしてこの会社に出会ったのです。当社には社員のひらめきをビジネスに変えてくれる環境があります。私の場合はそれにひかれたというのが一番の理由です」<br /><br />実際働いてみて、その魅力が揺るぐことはなかったという。自分で決めることができ、自分で提案することができ、自分でつくっていくことができる。もちろんそれだけ責任は大きいが、同社にはそれをサポートしてくれるチームもシステムも整っているという。<br /><br />また、同じく2006年に中途で入社した社員に王氏がいる。中国人として中国で働いていたのだが、この会社のやさしい雰囲気とそれでいて仕事に熱心なところにひかれたのだという。<br />「この会社で私がやりたいのは、日本と中国の架け橋になることです。これからどんどん外国への需要が増えていきます。その時に私の日本での経験をいかしたいのです」<br /><br />こう話を聞いていると、社員そのものにも多様性を見出すことができる。<br />それでもこの会社が一つのまとまりをもって、仕事にとりくんでいけるのは、会社に流れる家族のような親密な空気と信頼があるからなのだろう。