株式会社平プロモート

愛知県豊田市にある株式会社平プロモートは、1964年にテクニカルイラストの専門企業としてスタートし、時代の流れに合わせてビジネススタイルを変容させて、現在はクリエイティブ×ITテクノロジーによって課題解決に向けたサービスを提供している。

同社が最近、特に力を入れているのが、デジタルツイン事業。IoTやAI、VR等の技術を用いて仮想空間に物理空間の環境を再現し、あらゆるシミュレートを通じて将来予測に役立たせようとする新技術であるが、同社ではVRを活用した自動車サービスエンジニア（以下、サービスエンジニア）のためのスキル教育システムの開発に取り組んでいる。

「サービスエンジニアに向け、VR空間に実物と同じ自動車とストールを再現して、修理やメンテナンススキルを習得できる教材を開発中です。一般にサービスエンジニアは、不調を訴えるお客様の車に同乗して、ヒアリングしながら走行時の異音や挙動を確認。それを基に故障している箇所を探り出し部品の交換や整備をして、お客様の車の不調を直します。そういった感覚器官で感じ取れる事象を、VR空間で再現しています」（執行役員・加納高広氏）。

自動車の挙動やエンジン音をリアルに再現するため、同社ではゲーム制作に活用される「Unreal Engine」を採用。ゲームエンジンであるUnreal Engineは、宇宙飛行士訓練や映画製作、テーマパークで利用される等、ゲーム制作以外で活用する例もあるが、日本ではまだ珍しい取り組みといえる。

「日本のエンターテインメント、とりわけゲーム業界の技術は世界でもトップレベルにあります。そのノウハウを産業用のシステムやソリューション開発に生かせないかという思いもあり、ゲームエンジンを使ったシステム開発を選択しました。当然、日本のUnreal Engineのエンジニアにとっては未知のチャレンジになると思いますが、今後、VRはあらゆる産業での活躍が期待されています。いち早くビジネスUnreal Engineエンジニアになれば、キャリアアップにも繋げられます」（加納氏）。

しかも、Unreal Engineの採用に至ったのは、同社のクリエイターがUnreal Engineの勉強をしたいと志願したのが事の起こりだという。3DCGの映像制作を得意とする同社だが、3DCGの同業他社が現れたことで市場単価が降下気味の中、更なる差別化要因としてUnreal Engineにフォーカスした。

「クリエイターやエンジニアにとって、新しい技術にチャレンジする機会が沢山ある会社です。メンバーの志向も考慮して、やりたいことを会社の仕事として取り組んでもらえる制度も用意しております。世界のTOYOTAをはじめ、トヨタグループ各社が取引先に名を連ねていることもあり、先端技術に触れる機会は自然と多くなります」（加納氏）。

先進的な取り組みにチャレンジしている平プロモートだが、メイン事業は自動車メーカーを中心とした製造業向けのマニュアル制作。売り上げの約6割はマニュアル制作だ。1964年にテクニカルイラストの制作会社として設立されて以来、テクニカルマニュアル制作、設計開発、映像、Webと少しずつ事業領域を広げ、「工業系分野に特化した技術資料の専門企業」というジャンルを築き上げてきた。

「紙のマニュアルを作るのが専門でしたが、時代の流れに合わせて紙のマニュアルへのニーズは減少すると考え、事業領域を広げてきました。コンサルティングから手掛けており、製造業が主なターゲット。これまでの取引で信頼関係を築いており、媒体が異なっても『技術』と『人』を繋ぐ架け橋であることに変わりはありません。『伝える』ためのノウハウを紙以外の媒体でも生かしています」（加納氏）。

クライアントのニーズは変化して、Webやアプリ、映像の制作が増えてきたとはいえ、クライアントは変わっていない。同社の信頼の厚さとノウハウの高さを顕著に示しているといえよう。

「地理的な要因もあって、トヨタ自動車、ならびに関連会社からの仕事が多く、当社も創業以来、長く取引を続けさせてもらっています。常に進化する業界の少し先の未来を予測して、クライアントのリクエストに迅速に対応トできる技術的なノウハウを蓄積する必要があると考えています」（加納氏）。

デンソー、アイシン、日産、マツダ、ホンダ、同社の取引先には大企業がズラリと並ぶ。どこから声が掛かっても即座に対応できる技術的なノウハウを持った企業を目指している。

「シンガポール政府による、国内の道路網と走行車両とをネットワークで繋ぐ、次世代交通システムの整備プロジェクトにも参画しています。特定のメーカーや車種に偏らず自動車全般の原理や構造に精通している強みを評価していただいた結果です。当社には、ベトナムにITオフショア開発拠点、シンガポールにアジアの営業・情報収集の発信拠点もあり、グローバルでの対応を前提としています」（加納氏）。

そのほか、平プロモートでは、プロモーション、技術解説、作業手順マニュアル等、映像の制作も手掛けており、普通はカタログ・Web・映像等、媒体によって制作会社が異なるところを、一括で受託することができ、クライアント目線で見ればコストを抑えて高いクオリティーの制作物を発注できる。それだけでなく、自社開発アプリの販売も展開している。

「自社開発アプリ『Kupu』は、マニュアル作成アプリケーションとして開発されましたが、今や作業方法やノウハウを伝えるためのツールの枠を超え、『品質の管理』『オペレーション改善』『遠隔教育プラットフォーム』といった、より大きな目的を達成するためのツールとして、お客様の仕事のあり方を変えていくシステムに変化を遂げつつあります」（加納氏）。

平プロモートは、自動車業界とファクトリーオートメーションの分野でのクライアントが多い。第3の事業の柱を求めていた同社が出会ったのが、医療・介護業界の大きな課題。離職率が高いといわれている医療・介護業界、その離職原因の多くが「腰痛」とされている。ここに平プロモートが長年かけて培ったノウハウを生かせるカギが眠っていた。

「日本の製造業の腰痛率は世界トップレベルで少ないといわれています。それは、各企業が従業員の労働安全衛生を確保するためにマニュアル等で細かく厳しくルールを決めているからです。しかし、もともと法律による基準化・規制化が十分でなかったため、業界による温度差を生みました。医療や介護業界では今、腰痛が深刻な問題となっています」（加納氏）。

同社は厚生労働省より、対策の遅れが指摘されている医療・介護・運送事業者を対象とした腰痛対策⽀援事業を受託し、腰痛を起こさないための「正しい体の使い方」に関するセミナーの企画・運営を行なっている。

「体重の40%以上の荷物を持ってはいけない等、工場では重い荷物を人力で運ばないように指導と管理が徹底されています。一方で、医療・介護の現場では患者や高齢者をベッドから車いすへ移乗させるときに身体を抱え上げます。その重量は大抵の場合40%以上あるのに。その結果、多くの関係者が腰を痛め苦しんでいます。工場の手順書を作るときの前提は『安全』。当社には現場にいる方全員の安全が保たれるよう促すノウハウがあります」（加納氏）。

介護施設では、夜間に部屋で事故が起きないように、各部屋を巡回している。しかし、寝ている方を起こしてしまうこともあり、何より人件費がかかる。室内の様子をITテクノロジーで把握できれば、介護現場での負担軽減に繋がる。平プロモートでは「デザインとITで介護業界を変革させる」を理念に介護業界向けのソリューション開発にも乗り出している。

「AI画像解析を専門とする東大発ベンチャーとコラボレーションして、介護の現場、特に患者や高齢者の部屋での転倒事故を防ぐための行動解析システムを開発しています。対象者のプライバシー確保と危険予知とを両立させ、かつ、そこで働く方達のオペレーションも最適化できる、画期的なシステムです。この先、フェーズ2、3と機能を拡張していくので、若い方にもぜひチャレンジしてほしいです」（加納氏）。

プランニングから制作まで一貫して行っている平プロモートは、豊田市に本社ビルを所有し、国内では岐阜、東京の計３拠。本社では、クリエイターやエンジニアを中心に働いており、約７割がマイカー通勤で、名古屋や岡崎、津島、一宮だけでなく、三重県や岐阜県から通う人もいるという。豊田市駅から徒歩圏内である為、公共交通機関での通勤も可能だ。静かな環境で新しいテクノロジーを駆使した仕事に専念したい人に、ぜひ飛び込んでほしい。