株式会社G-Trust

システム開発会社は、それぞれカラーがあり、自社のスタンスを持っている。エンジニアが転職先のシステム開発会社を探す際には、各社のカラーとスタンスを参考にすると、自分にマッチした会社で働くことができる。

メンバー7名の小さなシステム開発会社、株式会社G-Trust（ジートラスト）のスタンスは「下請け仕事」をしないこと。システム開発の業界は、一般に多重下請け構造、いわゆる“ゼネコン構造”になっているのは、誰しもが知るところ。小さなシステム開発会社は、SESと呼ばれるサービスで労働力となるエンジニアを提供することが多い。

「当社は、下請け仕事をしません。ベンダーに労働力として利用されるだけで、エンジニアが楽しく働けない、と考えるからです。クライアントである企業と一緒にシステムやプロダクトを開発する立ち位置で働けない案件は、断ります。下請け仕事をしないスタンスを社内外に公言しており、案件の受注は、エンジニアと相談して決めます。彼らが、対等な立場で開発に参加できないと判断すれば、断ります」（代表取締役社長・堀越大一氏）。

下請け仕事をしないと明言しているG-Trustのクライアントは、システム開発会社の営業として活躍してきた堀越氏が、長年かけて信頼関係を築いた企業がメイン。特に、成長過程の勢いある企業が多く、今後も関係継続が見込まれる。

「長年、一緒に仕事をしてきた人が、代表や責任者を務めている会社が当社のクライアントです。今後もクライアントを増やす予定はありません。当社のエンジニアが現場で活躍してくれているおかげで、現場で働くエンジニア同士に信頼関係が生まれ、安定した取引に繋がっています。エンジニア主導の会社なので、代表の私は何もしていません。全部、現場のエンジニアが考えて動いてくれます」（堀越氏）。

むやみにクライアントや案件を増やさず、信頼できる会社とだけ取引する。共に開発を進めるパートナー企業も同社のスタンスを理解してくれている。

「たとえエンジニアの年収が下がろうとも、楽しめない仕事はしないと、みんなで決めています。G-Trustの設立理由は『楽しい仕事を楽しんでする会社』を作ること。目先にとらわれて立ち上げ理由を見失えば、当社の存在意義はなくなります。G-Trustの存在意義は楽しめる場所であり続けること！エンジニアもみんなそれを理解しており、精一杯努力して結果に繋げています。だから、ますますクライアントから信頼され、経営を安定させることができます」（堀越氏）。

G-Trustの堀越氏は「営業畑」でキャリアを築いてきた人物。会社員時代には、エンジニアとの距離が近い営業と呼ばれていたらしく、多くのエンジニアに慕われてきた。2015年に前職の会社を辞めた時、エンジニアが後を追って会社を辞めたため、彼らの受け皿を作るために、起業しようとした。しかし、取引先の会社から、エンジニアと一緒に移籍してほしいと依頼を受け、起業は延期となった。

「取引先に会社を作るからよろしくお願いしますと挨拶に行ったところ、子会社の開発部隊が崩壊しているので、全員でうちの会社に来てくれないかとオファーを受け、好きにやらしてくれるというので、みんなで話し合って、その会社で働くことに決めました。会社の再建に成功し、外資系企業に売却が決まったタイミングで辞めてG-Trustを立ち上げました」（堀越氏）。

2019年に立ち上げられたG-Trust。堀越氏を慕うエンジニアが次々と集まり、7名の組織になった。しかし、堀越氏はG-Trustをあまり拡大するつもりはないという。

「G-Trustはエンジニアが楽しいことをやり続けられる会社でなければなりません。そのためには、メンバーもクライアントもむやみに増やしたくないと考えています。ただ、今のメンバーがとても頑張ってくれているおかげで、経営に少し余裕が生まれました。そこで、このエンジニアが作ってくれた余裕を、後進の育成と将来への投資に充てたいと考え、今回エンジニアを2名だけ増やすことにしました」（堀越氏）。

限定2名の求人。次はいつ求人を出すか分からない。10名規模の組織を理想としている堀越氏だから、次はないかもしれない。

「40代と30代のエンジニアで構成されている会社なので、若手のエンジニアがいません。あと一人・二人増やす余力はあるから、若手のエンジニアを採用して育てたいと考えています。30歳前後の経験あるエンジニアでも、もう少し若くて現場経験が浅いエンジニアでもOKです。『会社』の枠に収まりきらないと感じているなら、当社に入って、やりたいことを実現してほしいです」（堀越氏）。

G-Trustでは、エンジニアが懸命に働いて生み出した経営上の余裕を、将来への投資にも充てている。

「毎年、誰か一人を遊ばせたいと考えています。仕事の現場から離れて、自分が興味ある技術の習得に専念してもらいたいです。昨年は、ドローンに興味があるというエンジニアに、ドローンの知識を習得してもらい、ドローン空撮サービスを事業に加えました。ドローンは当社が関わる物流DXの案件でも活用を見込んでいます。これから入るメンバーにも、やりたいことがあれば積極的に提案してもらいたいです」（堀越氏）。

G-Trustは、エンジニアが楽しく働ける会社を目指して創設された。そのため、会社の運営にもエンジニアが積極的に参加する。堀越氏は、エンジニアが自分達にとって、働きやすい環境を自由にデザインしてほしいと考えており、限りなく“エンジニア自治区”に近い会社にしている。

「福利厚生を特に定めていません。正月に帰省した経費を会社で負担する等、それぞれのメンバーに必要なバックアップを、ケースバイケースで提供しています。基本、自己申告制です。福利厚生として会社で経費負担してほしいことがあれば、税理士と相談しながらできる範囲で対応します。みんながOKといえば、それでいいと考えています」（堀越氏）。

自分達で考えて会社の運営にも自由に提言できるため、同社のエンジニアは自社を自分の会社だという意識が強いという。

「良いのか悪いのか分かりませんが『規定』がほとんどないんです。給料もエンジニアの評価をベースに会社が決めて、決算賞与で調整しています。みんなが納得すれば、週3日勤務でもいいと思っています。今のようにみんなで決めて会社を維持してくれれば、そのうち、私は必要なくなります。私はあと数年でで引退したい。会社を社員に任せて、九州に帰ります。そのためにも、社員を10名程度に増やして、より強固で安定した経営基盤を築き上げたいです」（堀越氏）。

G-Trustには、オフィスがない。メンバーは基本リモートワーク。出社することがあるとしても、クライアントのオフィス。G-Trustのメンバーは、四半期に一回、箱根の温泉宿で合宿して、働きながらコミュニケーションを深めている。

「会議室のある宿で、温泉で休養しながら働いています。その時に、会社の方向性等を共有しています。G-Trustを設立した際に、オフィススペースは確保してあるのですが、コロナ禍でリモートワークが主流となり、内装工事をストップしました。今は各メンバーが自宅で働いています。1名だけ自宅で働きたくないという希望があったので、シェアオフィスを会社の経費で契約。都内各地のシェアオフィスで働いています」（堀越氏）。

会社に対して何を求めるかは、働く人にとって様々だろう。しっかりした規定があって、指揮系統がきちんと定まっている会社で働きたい人には、G-Trustのような会社は、不安定に映るかもしれない。しかし、仲間と一緒に自分達で考えながら、自由に楽しく働ける組織を維持・運営したいエンジニアには、G-Trustにはフィットするに違いない。

「万人受けする会社だとは思っていません。ただ、私達のスタンスを理解してそれに参加してくれるエンジニアはいると信じています。少しでも興味があれば、お互いを知る機会を設けましょう。案件の都合で、札幌と福岡でも人材を募集しています。Iターンしたいエンジニアがいれば、声を掛けてください」（堀越氏）。

不安定なまま自由を維持するのは、とても困難を伴う。G-Trustはそれができる気概とスキルを持っている類い稀な会社といえるだろう。