株式会社歯愛メディカル

質の高い経営で歯科業界を変革してきた企業が石川県にある。歯科クリニック向けのカタログ通販を展開する株式会社歯愛メディカルが、その会社だ。

同社の祖業にしてメイン事業である歯科クリニック向けのカタログ通販は、国内外のメーカー仕入品および、自社開発商品合わせて30,000以上の歯科材料を掲載、およそ65,000軒の歯科クリニックと取引がある。これは全国の歯科クリニックの95%をカバーする驚異的な数字。歯科クリニックが営業に使う「歯科材料」を低価格で提供している。

歯科クリニックから直接オーダーを受けて宅配便で届けるという、問屋とディーラーで構成されていた従来の商流とは別の流れを作り、価格追求を徹底した結果、ユーザーから圧倒的な支持を受けて成長した。

その後、歯科技工所、動物病院、病院・一般診療所、保育施設、ビューティーサロンと同じビジネスモデルを横展開して、売上アップを実現してきた。現在は、それぞれの業種でカタログ通販と並行してECサイトを運営。デジタル化も進めている。5年ごとに約2倍のペースで事業規模を拡大し続けており、2023年12月期は売上456億円達成。医療系通販ではナンバーワンの規模になった。

業界専門の通販事業を横展開しながら、同社はシナジーが期待できる新規事業にも積極的に取り組んできた。ダイレクトメールと一緒に送付するフリーペーパーの制作・発行を手掛け、広告事業を展開。歯科クリニックで販売しているデンタルケア用品を一般消費者向けにECで販売している。

さらに、通販事業の顧客をメインターゲットに、ホームページ制作を請け負っている。しかも、初期費用0円、月額1,980円という破格の設定。歯科医院向けクラウド型予約システムも「月額1,980円～」で提供。歯科クリニックを探すための便利なサイト『さがそう歯医者さん』を運営し、歯科医院、歯科技工所、動物病院、その他医療機関向けに機器を販売するサイト『Ciデジタルソリューション』を展開している。

その他に、歯科クリニックの事業継承マッチングサービスや、設計事務所と組んで歯科クリニックの規格型建物も格安で販売。新電力サービスやデジタルサイネージの導入等、ここでは書き切れないほど多くの事業を展開している。

驚くほど広範にビジネスを展開している同社だが、医療、特に歯科業界の進歩・発展に貢献する製品やソリューションの販売に力を入れている。歯科用のCTスキャン、治療用のユニット、マイクロスコープ等、歯科用の大型機器も販売。世界ナンバーワンのレントゲン機器メーカーや、ドイツのマイクロスコープ、韓国の企業が手掛けているクラウンを自動設計するソフト「Dentbird」等の日本独占販売権を取得している。

歯科技工の世界でも新しい取り組みにチャレンジしている。ジルコニアコーピング製作を中心とした歯科用CAD/CAMミリングセンター『3D Design Lab』を自社で運営。歯の治療で使う「被せ物」を、デジタル機器でスピーディーかつ快適に製作する事業を展開している。3Dプリンターを歯科クリニックに導入すれば、その場で「被せ物」を作成することができ、現在は1週間程度かかっている歯の治療が、1時間で終わる。

診療で患者の口に粘土を入れて型を作り、「被せ物」を作成するのが従来のやり方だった。口腔内をデジタルカメラで撮影し、そのデータをインターネット経由で同社のCAD/CAM加工センターに送り、ロボットが白い被せ物を作成。完成次第、全国の技工所、歯科医院に送る事業を進めている。制作・技術開発・販売・アフターメンテナンスを手掛けるため、M&Aで全国の歯科技工会社をグループ化することも推し進めている。

2018年には、エア・ウォーター社と合弁で新会社「アエラスバイオ株式会社」を設立。この会社が進めるのは、歯髄再生関連事業だ。

歯髄再生とは、歯の神経を再生させる技術で、これが実現すれば、歯の寿命は大きく伸びるといわれている。トカゲが尻尾を切られると幹細胞を使って再生するように、人間の体も再生が可能。人間の幹細胞は「脊髄」「さい帯血」「脂肪」「歯髄」で採取する。

「脊髄」は脊髄注射で採るため激痛が伴い、いわゆる「へその緒」である「さい帯血」は一生に一回しかチャンスがない。「脂肪」は細胞の質が悪い。その点、「歯髄」は硬い歯のエナメル質に囲まれており、DNA的損傷も少なく増殖能も脊髄の倍以上という質の高い幹細胞が採取できる。

歯の神経が死んでしまうと、枯れ木と同様に強度が弱くなり、歯を大きく削って「被せ物」をする。歯髄から採取した幹細胞によって歯の神経を再生できれば、強度が戻り、穴を埋めるだけの最小限・最短処置で済む。神経がある生活歯に戻せば歯の寿命も長くなり、歯科治療技術も劇的に変わる。

2021年7月、世界初の歯髄再生ができる歯科クリニックを神戸にオープン。8月には、愛知・大阪・福岡の3医院にて治療が開始された。アエラスバイオでは、歯科医院で抜歯された歯から、「歯髄」を採取・培養・加工するための高い技術を持ったセンターを有しており、歯髄幹細胞の受託製造や「幹細胞バンク」も運営している。幹細胞バンクを活用すれば、将来、不幸にも事故等で体の損傷を受けた場合、再生して修復するという再生医の発展にも貢献できる。

同社には、本社や物流拠点、東京と大阪のショールーム、全国の営業所で働く社員、約1,000名の社員が働いている。

同社の事業に惚れ込み入社した人、地元石川県で働きたいとUターンで入った人、それまでの経験を生かし即戦力として活躍する中途入社の人、中国、韓国、ネパール、フィリピン、ベトナム、台湾等多国籍な外国人社員等、様々なバックグラウンドを持つ人々が集い、それぞれのフィールドで活躍している。

入社年次や年齢、性別に関わりなくキャリアアップを目指せる風土がある。女性の管理職登用にも積極的に取り組んでおり、産休育休取得者も多く、育休復帰率は100%。復帰後の家庭環境に考慮した時短勤務も可能。輸入品が多いことに加え、今後の成長を考えて海外展開も見据え、グローバル人材の登用にも力を入れている。

事業の幅が大きいため、同社には社員がチャレンジ精神を発揮できる多彩な「場」がある。リーダーシップを発揮し新事業を立ち上げていくアントレプレナー型の人もいれば、コツコツと一つのテーマを深く掘り下げている人もいる。広告や販売促進に興味のある人、新しい商品企画をやってみたいと思っている人、医療を通じて人々に役立つ仕事をしてみたい人。その人なりの“働き甲斐”が必ずある。

社長と社員との距離が近く、垣根を設けずにざっくばらんなコミュニケーションが取れるのも同社の特徴。毎月1回、「ガラス張りの社員会」を実施。そこでは経営数値をオープンにして、情報や業績を共有しながら、全社一体となって事業成長に取り組む風通しの良い環境がある。

2000年の創業時、代表の清水清人氏が経営する歯科クリニックのスタッフルームで始まった同社。アパートの一室、一軒家、廃工場等を経て、2014年に現在の本社に移った。そして2023年秋、次世代型新物流センターに本社機能ごと移転。

最先端のロジスティクス技術を詰め込んだ物流拠点で、オートマチックで商品の出荷ができる。出荷能力が現在の3倍から4倍となり、さらなる成長余力が生まれた。建物は最新の耐震構造でヘリポートも設置。感染予防商品やおむつ等を備蓄し、地域住民の防災拠点としての役割も視野に入れている。

経営理念「先生と患者さんに喜ばれたい。」を実現するために、非常にクオリティーの高い事業を幅広く展開している同社。派手さのない質実剛健な会社だけに、今後も着実に事業拡大を続け、歯科やその他の医療分野で大きな貢献をする企業となるかもしれない。まだまだ将来が楽しみな会社といえる。