株式会社アイエント

自動車製造の中で欠かせない「金型設計」の世界で新しいビジネスを展開している会社が、埼玉県狭山市にある。

株式会社アイエントは、生産技術のプロフェッショナル企業。2001年の創業以来、自動車向けを中心に、プレス金型の構造設計や量産治具・検査治具の設計、NC工作機械を動かすために必要な「NCコード」の提供、スキャンした測定データより3DCADモデルへ変換する「リバースエンジニアリング」等、自動車メーカー・サプライヤーの生産をエンジニアリングの観点でバックアップしてきた。

同社は金型設計に留まらず、設計段階で発生する、荷重・振動等による強度面での問題や、熱の伝わりやすさによる熱問題等を、設計開発の段階からパソコン上でシミュレーションできる手法「CAE解析」も手掛けている。

「金型設計だけでなく、『成形見込みモデル』の提供や『NCデータ』の作成、『CAE解析』等、自動車メーカーやサプライヤーの生産技術をバックアップする技術を、幅広く提供しているのが当社の特徴。ホンダをはじめとする自動車メーカーやサプライヤーから信頼いただき、長く取引をしています」（代表取締役・中田茂夫氏）。

自動車メーカーやサプライヤーからの信頼があるため、同社では製造における、いわゆる“川上”の部分にも携わっている。

「デザイナーが思い描く形状を実現するために、生産技術の観点から、企画・アドバイスするコンサルティングのような仕事も手掛けています。デザイン通りに製品を製造するのは、生産技術の仕事。研究開発に近いポジションでの仕事は、技術屋にとっては魅力的です。特に、クルマが好きな人にとっては、まだ世の中に情報が出ていない自動車の開発に携わることもあり、モチベーションが高く保てます」（中田氏）。

中田氏は、エンジニア出身。自ら金型設計を手掛け、CAE解析も担当する。だからこそ、「技術」に対する思いが強い。

「取引先と対等な関係を築くことができるのは『技術』があるからです。会社の規模は関係ありません。だから当社は技術を安売りしません。技術こそ会社の価値の源泉です。技術者には、誇りを持って技術の修練に勤しんでもらいたいと考えています。仕事が安定してくると『作業』になりがち。そうなると、技術屋として仕事がつまらなくなります。当社は新しいチャレンジも積極的に行っているので、『作業』ではなく『仕事』に打ち込めます」（中田氏）。

日本は「金型大国」と呼ばれた時代もあるほど金型産業が栄え、生産額は世界一だった。トヨタ、日産、ホンダをはじめ、日本の自動車メーカーが世界で存在感を示すことができた影には、「金型設計」をはじめとする生産技術の高さがあった。

しかし、2000年以降、自動車や電機メーカーの海外移転と海外企業の技術力アップで、金型生産額は大幅に減少。2009年には生産額で中国に抜かれた。金型産業の衰退に伴い、金型設計の技術者の数も減少の一途をたどっている。そんな中、同社は金型設計のDXに着手した。

「金型設計は職人の世界。仕事が属人的になりがちで、技術力の高いエンジニアに仕事が集中してしまいます。手間を減らして誰でも簡単に設計できるツールがあれば、技術共有がスムーズに進み、作業の平準化に繋がります。若い人材が減っていることもあって、技術の継承が上手くいかず、社内に技術者がいなくなって困っている企業も多く見受けられ、CADメーカーと組んでそれぞれの企業専用のツール開発に乗り出しました」（プロジェクト推進/技術開発・N.Tさん）。

例えば、金型設計の自動化。CADは扱い方が複雑で、知識がない人間と熟練したエンジニアの間で大きな差が出る。そこで、Excelを手順書&コントローラーにすることで、CADのコマンドを入力できるようにする。

「CADのコマンドをExcelの手順通りに入力すれば、金型設計ができるツールを開発中です。金型設計の世界は技術の進化が速く、エンジニアは常に最新技術へのキャッチアップを求められます。その一方で、金型設計の単価が頭打ちし、エンジニアは努力しても報われなくなり、多くの人が業界を去りました。金型の値段がどんどん下がっている中、私自身の技術も価値が下がっているように感じていました。17年間、CADエンジニアとして働いた経験を最大限に生かすことができています」（N.Tさん）。

金型設計の受注金額の下落で、金型設計に携わるCADエンジニアの給料が下がり、若い人材が育たない金型業界。独立して個人で設計を請け負っていた人達も、どんどん引退しており、人材不足が深刻化している。

「海外製の金型は、日本製に比べ総じてクオリティー面で劣り、クオリティーの高い日本の会社に設計を依頼する、あるいは自社エンジニアを雇用する流れが生まれています。そんなサプライヤーのニーズにも、CADソフトウェア開発は応えられます。仮に海外の会社に金型設計を依頼するにしても、開発したCADソフトウェアを利用すれば、クオリティーコントロールが可能となります」（N.Tさん）。

金型設計の自動化ツールを組み込んだCADソフトウェアの開発に乗り出した同社。自身も高い技術力を持つエンジニアである中田氏は、新しいチャレンジで今の地位を築いてきた人物だ。

石川県の小さなサプライヤーで働いていた頃、当時はまだ珍しかった「設計のアウトソース」を事業化。その事業を自らの手で展開するために、同社を設立した。技術力を武器に取引先の信頼を勝ち取って、会社を順調に成長させてきた。金型設計の業界が下降線をたどると、CAE解析等の生産技術全体に仕事を広げて対応した。

「社員に近い目線で話してくれる尊敬できる代表です。社員一人ひとりの力量を把握して、それぞれに合った仕事を振り分けてくれます。無理のないペースで成長できているのを感じています。成長するためのヒントを与えてくれる、経営者というよりも頼れる先輩エンジニアといった人です」（CAE解析エンジニア）。

現在、15名のメンバーが働く同社。代表とバックオフィスのスタッフ以外は、全員がエンジニア。CAD未経験で入社したメンバーもいれば、15年以上CADエンジニアとして働いてきたベテランもいる。

「当社は、いろんな人を受け入れてくれます。私の派手な髪色やネイルも特に注意されず、個性として尊重されています。見た目で判断せず、年齢や性別に関係なく評価してくれる会社です。メンバーはみんな仲が良くて、張り詰めた空気は一切ない職場です」（CADモデリング/CAE解析エンジニア）。

他社で経験を積んだCADエンジニアが同社で働けば、規模が小さい故のメリットを得られる。経験豊富な代表から学ぶチャンスがあり、上下関係のない環境で自由に意見を言える。

「CAD未経験での入社ですが、誰でも対等に議論ができる会社だと感じています。上の人が言うことは絶対ではない。前職が体育会系な社風の会社だったこともあり、仲間として気楽に交流できているのが嬉しいです。飲みの場でも変な上下関係がなく、仕事の飲み会も義務感なく純粋に楽しめています」（CADモデリングエンジニア）。

同社では、近年、新卒採用を含め、未経験の人材を採用してきた。仕事の依頼が増加しており、加えて金型設計DXの新規事業も進めているため、経験豊富なCADエンジニアを求めている。

「若手人材を積極的に採用してきたので、彼らを牽引してくれるベテラン人材を歓迎します。研究・開発にも携わっているので、柔軟な考え方やものの捉え方をするCADエンジニアを求めています。柔軟な発想で新しいことにチャレンジしたい人は大歓迎。金型設計の業界でしっかりとキャリアを築きたいと考え、当社の新しいチャレンジに参加してくれるベテランが入社してくれると非常に頼もしいです」（中田氏）。