株式会社アンビシャス

株式会社アンビシャスは2013年6月に創業し、Webシステムの受託開発を軸に事業を展開するシステム開発会社だ。大阪市に開発拠点を置き、関西圏、首都圏を中心に、北海道、中四国、北陸等の企業と取引している。取引先の業種は化粧品メーカーや金属工業等の各種製造業、アウトドアブランド、タクシー会社、人材派遣会社、大学等、多岐にわたる。規模も中小企業から全国、世界規模で事業展開する大企業まで様々だが、全社売上の80%が直取引によるものだ。

同社が得意とするのは、Webシステムの中でもBtoB領域の業務管理システムだ。顧客管理や勤怠管理等の基幹系システムはもちろん、人材ビジネスにおけるスタッフ管理システム、タクシーの配車システムやコールセンターシステム等、多種多様な実績を積んできた。技術的にもPHP言語や、そのフレームワークLaravelを中心としながら、近年はFlutterを使ったiOSやAndroid OS向けのモバイルアプリ等の開発案件にも注力している。

創業者の取締役社長・久原央士氏は、自社の強みを次のように語る。

「お客様からご相談を頂いた際、全く同じシステムではなかったとしても、部分的に重なっていたり、類似するシステムを作ったりした実績があれば、具体例が示せるため説得力が違います。業務系のシステムに共通するのは“情報の管理”です。ホテルの予約システムは部屋の管理ですし、飛行機の予約システムなら客席の管理、物販なら在庫の管理となります。究極的には人か物の管理をするための仕組みですし、過去の実績があるため、どんなご相談が来ても対応できることが当社の強みです」（久原氏）。

このような幅広い開発を可能としているのは、未知の業界や新しい技術に対しても柔軟に対応しようとする基本姿勢だ。創業以来、寄せられる相談には、技術的に難しいことでも前向きに取り組み、顧客の期待に応えてきた。難度の高い課題にチャレンジしてやり切れば、それが実績となり、その後の取引や紹介にも繋がりやすい。また新しいチャレンジに対するハードルが下がり、柔軟に対応する力が育ってきた。

営業を担うのは久原氏のみで、テレアポ等のプッシュ型の営業は一切していない。取引先や知人から紹介のみで顧客との接点を作り、柔軟かつ的確な提案を行うことで、確実に受注へ繋げてきた。

ターニングポイントは、2019年12月。M&Aにより、株式会社テクノデジタルの100%子会社となったことだ。資金や技術、人的リソースの充実により、受注案件の規模も拡大。時期的にDXのニーズが増えたことも追い風となり、直近3年間で、従業員数は約2倍、売上は約4倍と、事業規模を拡大している。

テクノデジタルによるアンビシャスの買収は、双方にとってWin-Winの形を採った。創業6年を経過してさらなる飛躍を遂げる足がかりを掴みたかったアンビシャスに対して、テクノデジタルには、国内第2の都市・大阪を抱える関西市場に進出したい思惑があった。現在もアンビシャス社の事業運営は、引き続き久原氏が指揮を執り、社員もそのままの形で残った。また、M&Aと同時に久原氏はテクノデジタルの取締役に就任。親会社の経営にも参画し、グループ全体の発展を共に支える立場となっている。

久原氏はアンビシャスを立ち上げる以前、Webサイト制作者の経験を持つ。その中で、PHPを使ったプログラミングの依頼が増えたことから、独学で技術を身に付けシステム開発も手掛けるようになった。東京にも進出し大手企業との取引が増える中で、東京でのビジネス環境を整えるために、設立したのがアンビシャスだ。本社を東京に登記しているのはその名残である。

久原氏自身、エンジニアとして約7年のキャリアを積み、アンビシャス設立後も、しばらくはクライアントの相談に技術とアイデアを駆使して応えることに喜びを見出していた。だが取引先や社員が増え始めた段階で、将来を見据え、どのように発展させていけば良いかという悩みを抱えるようになった。そんな時に知人のM&Aコンサルタントを介して出会ったのが、テクノデジタルの代表・播田誠氏だった。

「テクノデジタルの代表は私より年上ですが同世代で、創業から17年で約200人規模にまで成長させました。その姿に強い感銘を受け、私自身、ビジョンや目標を掲げて会社を経営していこうと考えるに至りました」（久原氏）。

まず着手したのが、定量的な目標だ。2032年までに、従業員100名、年商10億円という目標を掲げる。そしてその目標を実現するため、受託開発で力を付けた上で自社サービスにも着手する考えだ。

「まだ具体的ではありませんが、現在イメージしているのは業界特化型のシステムです。この業界の管理システムと言えばこれ、と言われるぐらいのシェアが取れるサブスク型のクラウドサービスを提供できれば、安定した収益が確保できます。技術者としては常に新しいシステムを作り続けることは楽しいですが、会社の収益を安定させることも重要です。受託案件と自社サービスの売上比率が拮抗する状態を目指したいと考えています」（久原氏）。

このような長期ビジョンを掲げる一方、短期的な課題として取り組むのは、増え続ける受託開発のニーズに応えられる開発体制の構築である。現在は同社の社員だけでは足りず、親会社からの出向社員や、パートナー企業の力を借りている状況だ。PHP、Laravelを用いた開発案件のチームに配属する技術者を積極的に採用する計画だ。

10年で従業員100名、売上10億円という目標を掲げる一方、今後人数が増えても従業員が安心して働ける基盤を作るため、5項目で構成される『アンビシャスコアバリュー』を構築した。久原氏と幹部クラスの社員2名で約半年をかけ、どんなメンバーとなら働きやすかったか、楽しかったか等、過去の経験や体験を振り返り、会社の良い文化を抽出して言語化した。そこには、他者に積極的に貢献しようとする姿勢（ヘルプアクティブ）、あらゆる課題に対して前向きに思考し解決に向けて行動しようとする姿勢（柔軟な発想）、失敗を素直に認めて改善し信頼の獲得に努める姿勢（謙虚さ）、他者に対する感謝と敬意（感謝と敬意）、自分の気持ち意見・弱みを正直かつオープンに示す姿勢（オープンと正直）が表現されている。

久原氏らが大切にしているのは、既に在籍している社員や、今後採用する社員の働きやすさだ。久原氏は“働きやすさ”とは、価値観（行動指針）の一致だと考える。生き方や働き方の価値観を明確に示すことで、お互いのストレスが軽減し従業員全員が足並みを揃えて業務に推進できると考える。

「当社は創業以来、従業員を採用する際は、技術や業務スキルよりも人柄を重視し、考え方に共感できる人材を優先して採用してきました。実際に、プログラミング学習サービスで半年勉強したり、職業訓練校に3カ月通ったりしただけの実務未経験者も積極的に採用しています。今後も引き続き、この方針を堅持しながら、会社の規模を拡大したいと考えています」（久原氏）。

その時に大切なのが、このコアバリューだ。自己中心的でコアバリューに合致しない態度を取る社員が混じっていると、心理的安全性は保てない。心理的安全性の確保が業績にも大きく作用していることを示す大手企業（Google等）の調査結果もある。『アンビシャスコアバリュー』に“オープンで正直”を入れたのはそのためだ。そこには、話す側だけではなく、聞く側の努力も求められる。

また、このコアバリューを軸に、様々な社内改革を進めている。まずは就業規則を見直し、さらに、給与査定の基準設計にも着手している。コアバリューの体現と技術的な貢献の両側面から、何をどのぐらい頑張れば評価されるのかを明確に定め、働きやすく、かつやりがいを感じられる職場環境構築を目指している。

「人生でも仕事でも一番難しいのは人間関係です。時には人間関係が煩わしかったり、面倒くさかったり、人の心が理解できなかったり、分かってもらえなかったりします。しかし人間は孤独に生きていくわけにはいきません。人間関係から逃げずに向き合って良くしていくことで楽しい職場は実現します。会社にいる時間は1日8時間。その時間が充実すれば、人生は2倍楽しめます。生活のために仕方なく働くのではなく、やりがいを感じ、ドラマティックに苦楽を共にしながら一緒に喜べる仲間がいて、かつ個人のプライベートも充実している。そんな会社を目指しています」（久原氏）。

同社が提示する価値観は、リモートワーク等が注目される現代社会からは逆行するものかもしれない。しかしそういう世の中だからこそ再度人と人との関わりを見つめ直したい。そんな考えに共感できる仲間を同社は求めている。