キッセイコムテック株式会社

医療分野や製造業界をはじめ、各種システムを開発・提供するキッセイコムテック株式会社。1985年に、キッセイ薬品工業株式会社のユーザー系SIerとして設立された。

今回インタビューした総務人事部長の唐澤和宏氏は、設立の経緯についてこのように説明する。「元々は、キッセイ薬品工業の電算部門として情報処理システムを取り扱う部門でした。そちらが分離・独立して誕生したのがキッセイコムテックです。医薬品という業界柄、製造業の中でも生産管理・品質管理には高い質が求められます。社内で独自に積み上げてきた確かなシステム作りのノウハウを、製造ライン、営業支援、バックオフィスなどに活かし、社外へ貢献できないかと考えたのです」

1980年代後半は、各大手メーカーのユーザー系SIer設立が盛んだった時期。キッセイ薬品工業もITの将来性に着目し、情報システム部門を船出させたのだ。十数人でスタートし、まずはキッセイ薬品工業のシステム構築を継続しながら、社外向けサービスも続々と誕生させてきた。

しかし、同社がプライドを持っているのは、ITノウハウだけではない。

「私共キッセイコムテックの使命は、豊富な知識と高度な技術を融合した独自の情報サービスを豊かな心を込めてご提供し続けることだと考えています。」――代表取締役会長・最高経営責任者（CEO）である神澤鋭二氏は、同社ホームページのトップメッセージにてこのように語る。

“豊富な知識と高度な技術”と、“豊かな心”。一見相反するワードが目を引く。具体的には何を意味するのだろうか？

「もちろん当社の技術力には大きな自信があります。しかし技術に走り過ぎると、人と人との触れ合いを忘れがちになるのではないでしょうか。お客様にはそれぞれ目指すゴールや中継地点があり、それをシステムで支援するのが私達の役目。技術を押し売りするのではなく、お客様の悩みや思いに寄り添いながら、その地点まで伴走するのです。そういった意味で、私達は“豊かな心”を大切にしてきました」

確かな技術力と、豊かな心――。同社の強みは、まさにこの二つの要素でできていると言って良いだろう。

同社の事業には、三つの柱がある。

一つ目の柱は「システムインテグレーションサービス」（システムの開発・販売）である。その製品は実に多様だ。ソフトだけでなく、製造業界の工場内設備を管理する『AxisIoT』といったクラウドサービスも手掛ける。またレンタル業向けWEB販売管理システム『KAREN-CORE』といったニッチな業界向けのサービスも展開。そして近年は、ペーパーレス会議システム『SmartDiscussion』も大きく注目を集めている。もちろんパッケージ開発だけでなく、企業ごとのスクラッチ開発もお手の物だ。

二つ目が「メディカルシステム開発・販売」。やはり医薬品業界の子会社として、メディカルシステム領域の独創的なシステムの開発・販売は強みだ。医療機関向けの医用画像管理システム、基礎医学研究などの分野で使われる生体信号解析ソフトウェア、リハビリテーションの歩行解析や胸骨圧迫、姿勢計測に特化した動作解析システム、研究機関・個人向けの睡眠解析サービス、介護記録情報共有クラウドサービスなど、メディカル分野における多数のソリューションを提供している。

そして三つ目の柱が「システムリソースサービス」である。自社でデータセンターを持ち、ITサービスマネジメントシステムによる徹底した品質管理体制のもと統合されたマネジメントサービスを展開している。もう一つのサービス、「ICTレンタルソリューション」も、同社を語る上で無視できない。PCやタブレット等の機材を貸し出すほか、関連サービスまでトータルサポートを行うレンタル事業だ。

「この事業がスタートしたのは1996年。Windows95が世に出たばかりの頃です。新しいスペックが続々と出てくる中で、各企業が気軽に機材を購入できる時代ではありませんでした。そんな状況で、最新の機材をレンタルできるのは非常に画期的だったと自負しています。以降も東京ゲームショウやCEATECなどの大規模イベントはもちろん、日本で開催された主要国首脳会議（サミット）や国際通貨基金（IMF）・世界銀行グループ年次総会など、名だたる国際的な会議で機材設置・ネットワーク環境構築を行い、ICTの観点から会議成功に尽力してきました。」

ソフトウェアの開発から機材のレンタル、さらには導入後のサポート体制まで充実。こうした“ワンストップソリューション”でユーザーを支え、大きな支持を獲得してきた。こうして1985年設立以来、着実に成長を遂げ、今では売上も100億円を達成している。三本柱の事業はどんどん高く、そして根深く成長しているのだ。

しかしその成功には、技術力や提案力だけでなく、やはり人間力もある気がしてならない。

「私達は、経営理念で掲げる“人間尊重の経営”、この“人間”を三つの存在に分けて考えています。まず一つ目は、たゆまぬ努力でシステムを開発・提供する当社の社員。二つ目はもちろん、当社のシステムをご利用いただくお客様。そして三つ目が地域の方々。当社の社員が全力でそれぞれのお客様のお役に立つことで、地域社会をより良い場所へ――。こうして“人”を見つめることで、広く社会貢献を実現しようとしているのです」

技術力と人間力を併せ持つ優秀な人材が活躍できるよう、同社は“キャリアの可視化”と“働き続けやすい環境の整備”を強く心掛けている。

まずは“キャリアの可視化”について。

2022年、同社は「役割等級制度」を施行。職種ごとに求められる役割と責任範囲、力量水準を明確化し、社内の6職種で合計14等級を制定した。
「役割・必要な能力等を明確にしたことでキャリアアップも目指しやすい。経験（年齢や勤続年数）に基づく役割発揮・能力の向上は基本的に期待しつつも、向上の速度の個人差も認め、必要在籍年数を満たせば現状より早い昇格の可能性があるなど、より適正なタイミングで担うべき役割を担える仕組みとした。」

また、毎月社員一人ひとりに対する1on1ミーティングも実施。1カ月の仕事の振り返りはもちろん、悩みごとや今後目指すもの等、上司と部下がお互いを理解するための大切な時間だ。もちろん上司に向けても、傾聴力向上やコーチングトレーニングといった研修を欠かさない。

次は、キャリアアップに向けた“働き続けやすい環境の整備”について。

「当社では長時間労働を徹底的に是正しています。まず、毎週水曜日と給与・賞与支給日はノー残業デー。この日は定時を過ぎた商談も避けるよう呼び掛けています」

また、在宅勤務やセレクティブタイム（時差出勤）は、コロナ禍前の2019年からトライアルを開始していたという。セレクティブタイムを活用して早めに出勤すれば、夕方は病院へ行ったり、趣味のスポーツを楽しんだりということもできる。こうした働き方への取り組みが評価され、2019年に長野労働局から「ベストプラクティス企業」に認定された。

そして「家族を大切にしながら働けること」も、同社のキーワードと言えるだろう。現在、女性の育児休暇は100%、男性は63%。復帰後も子どもの小学校就学前まで時短勤務が可能だ。

また同社には、ぜひとも取り上げたい興味深いイベントがある。取材へ赴いた8月のある日、唐澤氏がこんなことを言った。「実は今日、本社と東京事業所で“子ども参観”があったのです」3年に1回実施される子ども参観。子どもに親の働く姿を見てもらい、幼い頃から“働くこと”に興味を持ってもらうことが大きな狙いだ。一緒に昼食をとったり、子ども一人ひとりに名刺を用意して交換したり……。子どもにとって、夏休みの大切な思い出になりそうだ。

他にも同社には、書き切れないほどの家族支援制度が目白押しだ。家族も安心させられるほどの、同社の職場環境。メリハリある働き方は、同社の高い実績にも繋がっているのだろう。

「会社の成長、社員の成長。この歩みを止める気は毛頭ありません。私達はもっと上を目指すことができます」と、唐澤氏は頼もしく断言する。“豊かな心”を持つ人がITを駆使して、社会に、人に貢献し続ける。それがキッセイコムテックなのだ。