株式会社薬王堂

東北6県に380店舗を超えるドラッグストアを展開している株式会社薬王堂。1978年創業で、東北では数少ない、東証プライム市場に上場している企業でもある。その成長の原動力となっているのが、同業他社を圧倒するほどの出店スピードだ。しかも、都市部中心に出店するのではなく、郊外エリアへ重点的に店舗を出し、「消費者の生活の一部を担うドラッグストアを目指す」ところも特徴的だ。
「都市部は競争が激しく、家賃などコストも割高です。東北エリアは車社会であり、わざわざ駅近な都市部に出すよりも、会社から車で帰宅する途中で気軽に立ち寄っていただける場所に出店するほうが、コストメリットを出しやすい。何より、お客様の生活圏に近い郊外エリアに出店するほうが、身近な存在として認知していただきやすいですからね」（取締役 執行役員 管理本部長 兼 DX戦略部長・西郷泰広氏）

薬王堂は店舗づくりにも工夫がある。ドラッグストアというと、ところ狭しと商品が陳列されていて、ときには通路にまで商品が積んであることも珍しくない。しかし、薬王堂ではお客様が商品を見つけやすく、買い物しやすいシンプルな売り場づくりを心掛けているそうだ。

また、人口減少や少子高齢化といった大きな課題に直面している東北エリアで事業を展開しているからこその強みもあると西郷氏は続ける。
「東京など人口が多い大都市に比べて店舗当たりの売上規模には限界がありますし、人材の確保という面でも厳しい状況にあります。ですが、この環境下で事業を継続してきたからこそローコストオペレーションに磨きがかかったともいえると感じています」
例えば、同社では10年以上前から発注業務の自動化を導入している。店舗運営において、発注業務と商品の補充業務がスタッフの大きな負担になっていることを鑑み、ITを導入することで負荷軽減による業務効率化を目指したのだという。このような背景があるからか、薬王堂ではDXに積極的で、様々な取り組みが行われている。

会員情報や購買データの利活用によるデジタルマーケティングはもとより、アイテム数2,200点以上というプライベートブランド『ALL WAY BASIC』の商品開発にもデータを活用。訴求度の高い商品開発、消費者に喜ばれる商品開発に活かしている。その他、「PoC段階ではあるが」と前置きしつつ、IT技術による新サービスについても西郷氏が語ってくれた。
「簡易的な血液検査によって健康度チェックができるサービスを提供しています。本格的な血液検査だと血液を採取してから結果が出るまで１週間ほどかかりますが、当社のサービスであれば、コレステロール値や血糖値をすぐに検査することができます。口内環境をチェックして歯周病のリスクを測れるサービスや、スマホで簡単に乾燥肌・敏感肌等、肌診断ができるサービスも。これはカメラで肌を撮影すると、美容部員200名の知見を学習したAIが肌を診断して、肌の悩みに応じたコスメを紹介してくれるというものです」


このように、ITに積極的な薬王堂において、西郷氏が統括しているDX戦略部が注力しているのが、『P！ck and（ピックアンド）』だ。これは、事前にECを通じて注文しておけば、最短1時間で店舗受け取りが可能になるというサービスである。
「いわゆるBOPIS（Buy Online Pick-up In Store）です。ECで購入したものを店舗で受け取れるサービスのことで、欧米や中国の大手小売業で導入が進んでいる仕組みでもあります。ただ、一般的なBOPISとの違いは、基本的に店舗にある商品をピッキングすることで、外部の倉庫から店舗に商品を取り寄せる時間を削減している点です。ECで購入して店舗受け取りを指定すると受取日まで購入日から数日～1週間ほどかかるのが普通ですが、『P！ck and』であれば、ほしいときすぐ手に入れることができます」（西郷氏）。

ただ、店舗在庫をピッキングするとなると、在庫管理が非常に重要になる。注文された商品が受け取る店舗になければ、他から送ってもらう必要があり、その分、受け取りが遅れてしまうからだ。ただその点も、薬王堂では対応しやすい環境が整っていると西郷氏は話す。
「早くから業務のデジタル化に取り組んでいたおかげで、現在では1時間おきに在庫の動きを管理することが可能になっています。この仕組みを活用することで、在庫の最適化を図っています」

とはいえ、現状の『P！ck and』は「完成形ではなく、これからますますサービス内容をブラッシュアップし、発展させていきたい」と考えていると西郷氏は続ける。そして、そのための人材を必要としているのだ。

今後、『P！ck and』はどう変わっていくのか。
「詳細を話すことはできませんが、プラットフォーム化して機能を充実させていきたいと思っています。ただ、そのためには消費者のニーズの変化に応じて柔軟にシステムを改善、進化させていくことが欠かせません。つまり、かゆいところに手が届くサービスづくりを、スピード感をもって実現していく必要があるわけです。そのことを見据えると、現状、サービス開発は協力会社に大きく頼っているのですが、今後はプロダクト開発のことを理解している人材を社内でも育てていく必要性を感じています」（西郷氏）。

エンジニアリングとプロダクト開発の知見を社内に蓄積することができれば、「次のプロダクト開発へと繋げていくことができる」と西郷氏は続ける。
「薬王堂はこれからも店舗を拡大していきます。仮に、500店舗まで拡大し、１日の利用者が400人いるとすれば、日に20万人というお客様との接点をもつことになります。このリアル店舗の資産とDXを掛け合わせることで、東北エリアに根差した新たなサービスを創出することが可能なはずです。人口減少や高齢化といった社会課題に直面している東北エリアで受け入れられる、もしくは通用するビジネスモデルを構築できれば、同じ課題を抱える他の都道府県、さらには海外へ横展開できるサービスへと育てることができるかもしれません」

話しがかなり壮大になったが、現状はそのスタート地点に立ったばかり。DX戦略部も立ち上がったばかりの組織である。メンバーもまだ5名と少なく、一人ひとりの責任範囲も広い。だが、それは裏を返せば、大きな裁量をもってサービスの成長を自らの力で推し進めていける可能性が高いということでもあるだろう。
「メンバー同士が意見を出し合いながらアイデアを練り上げ、形にしていくフェーズなので、リモートワークは難しく、働き方は出社・対面になりますが、その分大きなやりがいや手応えの得られる仕事ができるはずです。ぜひ一緒に、ITと店舗というリアルな資産を融合させた新たな価値を社会へ実装していきましょう！」（西郷氏）。