株式会社SICデジタル

株式会社SICデジタルは、大阪府吹田市に本社を置くシステム開発会社だ。2008年12月、リーマンショックによる不況の中で設立されて以来、組み込み・制御系の開発に軸足を置き、持続的成長を遂げてきた。2015年10月には、株式会社システム情報（現 株式会社SI&C）の100%子会社となり、業容を拡大している。

現在（2023年8月）は約50名の社員を中心に、外部パートナーの協力を得て事業を展開している。全体の8割以上が大手企業をクライアントとする受託案件だ。しかもその受託案件のうち、車載関連を除く全てが直取引である。

創業メンバーの一人で、自身も長年ソフトウェア開発の技術者として活躍し、現在は顧問を務める小椋覚氏が自社の特徴を次のように語る。

「50名前後の規模の開発会社として、直請けのお客様を主体に、請負中心のビジネスを行っている点が当社の最大の特徴です。また、最近のシステムは、一つのシステムの中でスマートフォンやWeb等、マルチな環境に対応してアプリケーションを開発するようになりました。それに対して、Webからスマホまであらゆる環境に対応し、さらに上流工程から実装まで一気通貫で対応できることも当社の強みです」（小椋氏）。

最も得意とするのは、創業時から手掛ける組み込み・制御系を中心とするソフトウェア開発事業だ。Webアプリケーション/iOS, Android等のスマートフォン向けアプリケーション、POSシステムをはじめとするWindowsアプリケーション、車載システム、IoTシステム、高速道路管制卓や駅券売機等の交通インフラ組み込みシステム等、様々な開発実績を持つ。また、Pythonを使った自動運転システム、音声認識エンジンや映像・画像認識エンジンを用いた生産性・品質向上システム、顔認証や指紋認証技術を用いたセキュリティシステム等、先端技術にも積極的に取り組んでいる。

これらソフトウェア開発とは別に、近年注力してきたのが、PMO・コンサルティング事業だ。DX導入支援、データ活用基盤の導入支援、PCLMを活用した運用支援、サーバ導入・構築・運用、システムの運用保守等、コンサルティングから運用保守まで、クライアント企業のニーズに合わせたサービスを提供している。2019年、大手コンサルティングファームでITコンサルタントとして20年以上の経験を積んだ代表取締役・新谷忍氏の就任と同時にスタート。現在は、5年間で全社売上の3分の1を占める中核事業の一つだ。

同社は組み込み・制御系の開発を中心に手掛けていた開発会社からスピンアウトした会社である。リーマンショックをきっかけに、前身となる会社に所属していた5名の技術者が、東京にあるシステム開発会社の出資を受け、関西システムソリューションズ株式会社としてスタート。SESを中心に、開発現場で顧客との関係を強めるスタイルで、コツコツと実績を築いてきた。創業当時から取引が続く顧客も多い。

2015年の段階では、従業員数は約30名に増え、取引先も大阪だけではなく、東京、名古屋等に広がり、大手企業から直で請ける受託案件も増えていった。

ターニングポイントは2019年、取締役が交代となり、現社長の新谷氏が代表取締役に就任したことが、事業内容や取引先を拡大する契機となった。

新谷氏がまず取り組んだのが、既存事業における取引先の見直しである。SES案件が全社売上の半分を占める状況から、受託案件中心のビジネスにシフト。それによって、技術者を自社で管理・育成しやすい環境を整備していった。従来、組み込み系の開発は常駐型でなければできない仕事だったが、コロナ禍をきっかけにそういった状況も変化した。組み込み開発の現場でもテレワークが当たり前になり、どこにいても仕事ができるようになった。そのような外部環境の変化も、受託開発メインのビジネスに転換する上では追い風となっている。

同時に業容の拡大にも着手している。ソフトウェアの受託開発を軸にしつつ、新谷氏自身の経験を生かしたPMO・コンサルティング事業を開始。それによって取引先、従業員数の拡大に繋がったのである。

現在は、さらに新たな事業にも取り組み始めている。その一つがITサービスマネジメントクラウドサービス「ServiceNow」の導入支援だ。自社内では数年前から導入してノウハウを蓄積。現在はServiceNow社の認定パートナーとして、外部への導入プロジェクトも開始している。他にも、AI製品を用いて自社向けに開発した健康状態ケアシステムの外販等、自社発信型の事業に注力し始めている。

以上のように社内の変革に着手し、環境整備を進める中で課題となっているのは、さらなる成長に向けた人員体制の強化である。2023年8月には、Ruby言語発祥の地であり、IT人材の育成や企業誘致に力を入れる島根県に事業所を開設。既に現地で新卒採用を行い、3名の内定者を出している。さらに採用活動を進め、2024年4月の本格稼働後は、大阪本社と同様に、ソフトウェアの受託開発やAIを活用したサービス構築、「ServiceNow」の導入支援における開発業務を行っていく予定だ。

同時に大阪本社でも積極的な採用活動を展開中だ。

「人口減少や人手不足が深刻化する中、我々IT企業に求められていることは、AIやロボット等を活用したDXです。今後は、当社自身がDXで働き方や業務を改革し、そこで培ったノウハウをお客様に提供し、永続的な成長を目指します。その方針は、変更後の社名にも込められています。当社は現在、このような未来に向けた取り組みの先頭に立っていただけるリーダー、または将来的にリーダーを担っていただける人材を求めています」（小椋氏）。

「創業時に目指したのは、お客様の期待に応えられる技術志向の会社です。そのために重要なのは技術者です。技術者教育に力を入れ、常に先端技術を先取りしながら事業を広げてきました」（小椋氏）。

グループイン後も新卒採用をはじめ、若手人材を中心とする採用活動を行ってきた。そのため平均年齢は34.3歳と、IT業界の平均年齢39歳より、さらに若い組織である。

その一方では、経験豊富なベテラン層も在籍している。経験の浅い若手人材は、そういったベテラン技術者とペアを組み、実務の中で指導を受けながら仕事を覚えてきた。また、案件によって新しい技術が必要な時には、社員が主体となり社内勉強会を開催して獲得してきた。最近の例では、ロボットOSの勉強会を開催している。

さらにシステム情報社（現 SI&C）にグループインしてからは、親会社が開催するセミナーや技術教育も従業員教育の一環として活用している。フィンテック、ブロックチェーンをはじめ、最先端の幅広い知識を吸収しながらスキルを伸ばせる環境である。

また、各エンジニアの能力が発揮しやすいよう、定期的に組織体制を見直し、人員の配置も組み直している。新谷氏が大手コンサルティング会社での業務を通して身に付けたマネジメント手法に基づく取り組みで、技術者が力を発揮しやすい環境づくりの一環だ。

働き方改革も進める。例えばテレワーク。受託案件の中にも、POSレジ等、ハードウェアの関係で客先に常駐しているチームもある。しかし、持ち帰り案件が増えた現在、開発業務はどこにいてもできる。同社では週1日の出社日を設けるが、それ以外はフルリモートで働くことも可能だ。

残業時間も激減した。過去には案件によって残業や休日出勤が常態化していた時期もあるが、取引先の見直しを図ってからは、そのような案件は一切なくなった。現在、1カ月平均の残業時間は約17時間にまで低下。これらも受託直請け案件にシフトした成果の一つだ。

2022年10月には社員が将来にわたって安心して働けるよう、「確定拠出年金（401k）」を導入。現在はさらに、評価制度をはじめとした社内制度の再構築を進めているところだ。

「当社が目指しているのは、会社の発展とともに、エンジニア自身も成長できる会社です。エンジニアには各自、“こうなりたい”というビジョンがあるはずです。当社はその実現に向けたサポートは惜しみません。個別にどのようなキャリアを形成したいかヒアリングし、可能な限り希望に叶ったアサインをしています。当社はチーム単位で仕事をする会社ですので、自ら率先して仕事に取り組む姿勢や協調性のある方をお待ちしています」（小椋氏）。