株式会社CYNK

株式会社CYNK（シンク）は、客先常駐をメイン事業にするシステム開発会社。2015年7月に代表取締役社長の永見暢之氏と、取締役の工藤康志氏が2人で立ち上げた。

一昔前に比べれば就労環境が改善したシステム開発業界だが、まだまだ高稼働のイメージが払拭できず敬遠されがちな業界といえる。しかし、現実は必ずしもそうとはいえない。高稼働な現場も存在するが、作業量が安定している案件もたくさんあり、考え方やライフスタイルに合わせて案件を選択できる。エンジニア本人がどこに重きを置くかが問題となるだけだ。

「最新技術に関わってスキルを高めるためには高稼働も苦にしない働き方もあれば、安定した現場で長く働きながらワークライフバランスを重視した人生を選び、毎日を有意義に過ごしたいエンジニアもいます。私の前職は、全員がバリバリ頑張って管理職を目指す社風の会社でした。PGは経験を積んだらSEになって自分のチームを持つのがスタンダード。それに付いていけない人は辞めていきました。高稼働の案件を渡り歩いてスキルを高め、成長するのは意義があるしことだし、本人も楽しい。しかし、それは会社や上司から押し付けられるものではなく、自分で選択するものであるはずです」（永見氏）

永見氏と工藤氏がCYNKを立ち上げた理由は、エンジニアが働きやすい環境で楽しく仕事ができる会社を作ることができると確信したから。永見氏は前職でエンジニアをしていたとき、もたれ合いで成り立っていた営業のスタイルを一新させるべく役員会に乗り込んで訴えたところ「そこまで言うなら自分でやれ」といわれ営業職にジョブチェンジしたという武勇伝を持つ骨のある人物。エンジニアの気持ちも営業のロジックも理解しているのが強みだ。

「システム開発会社において、営業は重要です。会社の命運もエンジニアの人生も営業がどんな案件を取ってくるかに左右されます。営業ノルマがあるようなシステム開発会社では、高単価・高稼働の案件ばかり受注し、エンジニアが駒として扱われ疲弊していくだけ。私はエンジニア時代、納得いかない現場に行くのが嫌で、手掛けている案件が終わりそうになると、知り合いの会社に声をかけて自分で案件を取っていました」（永見氏）

会社都合で案件を押し付けるようなことはしていないし、これからもするつもりがない、と永見氏は力強く語ってくれた。

エンジニアが働きやすい環境で楽しく仕事ができる会社を作るために、CYNKでは一緒に会社を作る仲間を求めている。まだまだスタートアップ段階の会社ゆえ、部下というよりも仲間がほしいと永見氏は言う。

「まずは社員10名規模を目指しています。未経験を採用して育成するのが望ましいのですが、今の会社の規模ではまだ難しいのが実情。即戦力の人材で会社を大きくさせて、まずは次の成長段階にステップアップさせたいです」（永見氏）

最初の10名は、CYNKにとって会社を一緒に作り上げるコア社員となる。会社が大きくなった暁には、相応のリターンができるように経営を進めていきたいと永見氏は考えている。とはいえ、急激な成長を目指すと、創業の志や会社の理念がないがしろになってしまう。地に足を付けて足元を見ながら、メンバー全員で議論を活発にさせ堅実な成長を遂げたいと、同社では考えている。

客先常駐のシステム開発会社は、未経験でもなんでもいいから人を集めて、高単価の案件を受注すれば、利益が出る。しかし、それをしていたのでは、エンジニアが疲弊してしまう。同社では案件を受注する際、稼働状況を必ずチェックし、高稼働になりそうな気配がする案件は断る。

「黒を白と言えという現場はたくさんありますし、お客様に喜んでもらえるシステムの開発が正義だと信じて働いていましたが、必ずしもそうではないようです。当社では、エンジニアがお客様のことを第一に考えて思い切り腕を揮える案件を選んでいます。規模が大きすぎず、自分たちが中心で開発を進められる、あるいは信頼できるパートナー会社がコントロールしているような現場です」（永見氏）

同社の行動指針には、「お客様の利益と弊社の利益が相反する場合には、迷わずにお客様の利益を優先する企業を目指していきます」とある。クライアントの利益と同社の利益が相反する場合には、迷わずにクライアントの利益を優先するという。ただし、クライアントは事前に精査する。無茶な依頼を押し付けてくるクライアントとの関係は、ビジネスとはいえない。同じスタンスで互いにリスペクトできる関係を構築してこそ、ビジネスパートナーといえる。そうして、クライアントや案件を選ぶことで、自社のエンジニアを守ることができるのだ。

CYNKの企業理念の中に「中小企業を助け、元気にする」という一節がある。永見社長は前職で中小企業と関わりを持つ機会が多かった。大半の中小企業が業務をIT化できず、未だアナログな作業を続ける状況が気にかかっていた。

「毎月末に経理や総務の人が、Excel相手に手入力で時間をかけている作業も、ちょっとしたツールを導入して基幹システムからデータを引っ張ってくれば数分で済む話です。しかし、小さな会社ではデジタル化しようという発想すら、社内からは出ません」（永見氏）

例えば、CYNKが手がけたある会社では、営業担当の人が全国を飛び回っていたが、Excelのデータを更新するためだけに事務所へ戻っていた。データをクラウド管理すれば、事務所に戻らずに直帰できる。クラウドサービスに対応するため、社内の通信環境も変更し、会社の業務がスムーズに運ぶようになった。デジタル化すれば作業効率がよくなり、本来力を注ぐべき業務にパワーを振り分けることができる。CYNKでは、中小企業向けへのITコンサルティングも手掛けている。

「日本の企業の99％が中小企業だといわれていますが、彼らが業務をデジタル化できずに非効率な作業を今も行っているのは、予算がないからです。ITコンサルを手がける会社は星の数ほどありますが、中小企業の仕事を受ける会社は少ないのが現状です。なぜか？　簡単です、儲からないからです」（永見氏）

儲からない中小企業のITコンサルティングを、神奈川県下の企業を中心にCYNKでは安価で請け負っている。その理由は、先に挙げた「中小企業を助け、元気にする」という企業理念を実践するためだ。

「開発する側から見れば、儲からない仕事を受注できないのは理解できますが、中小企業の側から見れば、システム開発へ投資するには大きな決心が必要です。少ない予算を割くわけですから。しかし、作業をデジタル化できれば、その会社の従業員は作業負担が減って帰ることができるかもしれない。ITの力をいろんな人に享受してほしいというのが当社の願いなんです」（永見氏）

働きやすい職場を作りたいエンジニアを無理のないペースで増員し、客先常駐の業務を拡大する一方で、中小企業向けのITコンサルティングを増やす戦略で会社の事業ポートフォリオを作り上げていく。その中で、受託開発事業の拡大や自社サービスの構築も視野に入れている。

「今すぐには無理かも知れませんが、ゆくゆくは自社サービスも手掛けたいです。実現してみたいサービスやビジネスモデルを持つエンジニアがいれば、ぜひ当社でその思いやアイデアを実現してください」（永見氏）