株式会社アプリシエイト

茨城県水戸市にある株式会社アプリシエイトは「システム開発会社」である。ただ、事業展開は非常に幅広く、“地元貢献”を軸にDXコンサルティングからeスポーツまで手掛けている。

アプリシエイトの主力事業は、システムの開発・保守・運用。金融系システムをはじめ、ビルセキュリティ管理システム、インフラ管理システム（空港・鉄道）、製造業向け基幹業務・部門システム等を手掛けている。組み込みソフトウェアの開発にも強く、大手メーカーの現場で通信機器制御システムや自動車関連各種制御システム、計測機器制御システムに参加するメンバーも多い。

「当社の売上の9割は、システム開発。SES事業と呼ばれるエンジニアサービスです。大手メーカーの現場が多く、鉄道の運行制御システム等、大きな案件にも当社のエンジニアが参加しています。エンドユーザーと近いポジションでの仕事が大半で、商流も浅く、技術提案型の仕事を心掛けているため、自社エンジニアに無駄なストレスがかかることなく働ける環境を提供できています」（代表取締役社長・和田幸哉氏）。

SES事業が主力事業のアプリシエイトだが、メイン事業はそれ以外の事業だという。一般にシステム開発会社が、SES事業から自社プロダクトの開発へと事業シフトを志すように、同社でも自社プロダクトの開発を進めている。

クラウド対応型勤怠管理システム『iTime（アイタイム）』は、社員がどの業務にどの程度の時間をかけたのかを把握できる。プロジェクトの収支管理と社員一人当たりの付加価値額を管理。仕事の作業量を見える化することによって、ボトルネックや利益が低い原因を明らかにする。

「当社で開発を進めている『iシリーズ』は、経営判断のリアルタイム化を可能にする、中小企業向けのソリューション。『iTime』のほかにもプロジェクトマネジメントシステム『iPMS』も提供しています。受注計画を見える化するツールの開発も計画しています。最終的には、中小企業の経営に必要なツールを全て備えたオールインワンのソリューションを目指しています」（和田氏）。

中小企業向けの経営サポートツールの開発は、自社プロダクトをメイン事業にして下請け仕事から脱却して「ソフトウェアメーカー」になるための経営戦略であり、一方で地域活性化の一環でもある。アプリシエイトでは、地元の茨城の企業をメインクライアントに「IT顧問サービス」や「DXコンサルティング」も提供している。

アプリシエイトの事業拡大のキーワードの一つに「地域創生」がある。地元である茨城の活性化につながる事業をあれこれと展開している。

例えば、ドローンによる空撮。DJI社製のPhantomシリーズを使用して空撮を行うサービスを提供している。そのほかには、映像制作事業。PV（プロモーションビデオ）やVR（バーチャル・リアリティー）、AR（拡張現実）コンテンツの制作に加え、プロジェクションマッピングも手掛けている。さらに、Webサイト制作やWebマーケティング、SNS運用支援と様々なサービスを中小企業向けに提供している。

「ドローンによる空撮もプロジェクションマッピングも、茨城にはありませんでした。どれも地元企業からの相談を受けて事業を始めました。自分達だけでなく関わる全ての人を幸せにするという理念が当社の根底にあります。地元の企業が困っているなら、水戸のIT会社としてできる限りのサービスを提供したいと考えています」（和田氏）。

プログラミング教育の実施・サポートする講師の派遣、および教員のためのプログラミング教育研修を行うサービス等、地域のITリテラシーを底上げするための取り組みも積極的に行っている。

「高齢者向けのスマホ教室を開催したり、小学生向けにMinecraftを利用したプログラミングスクールを実施したり、茨城の方々がITを使いこなせるようになるための取り組みも続けています」（和田氏）。

アプリシエイトの地域創生事業の極みといえるのが「eスポーツ事業」だ。プロのeスポーツプレイヤーを雇用して、eスポーツイベントを開催したり、eスポーツを通じた地域づくり地域のコミュニティ活性化を推進するためのコンサルティングをしたりと色々企画している。

「プロeスポーツチーム『AREA310』を結成し、メンバーを集めています。水戸駅前にeスポーツ、eコマースの情報を発信するデジタル拠点『AREA310』を作り、eスポーツ体験やライブ配信、VR、AR 等のデジタルに触れられる施設として市民に無料開放しています。YouTubeチャンネル『AREA310』では、eスポーツコンテンツだけでなく、水戸の隠れた名店を紹介する、ミシュランをモジった動画『ミトラン』もアップ。eスポーツ実況をしたい人にYouTubeの編集も教えられます」（和田氏）。

今後はインタラクティブライブ配信サービスを活用して、地元のJリーグクラブ「水戸ホーリーホック」のファンイベントを開催などもしていく予定。配信スタジオを用意して、地元の学生にYouTube動画の制作にチャレンジしてもらいたいと和田氏は語る。

「eスポーツやYouTubeは一歩深く分け入れば、ハードウェアやソフトウェア、ネットワークの技術が詰まっています。若い人に技術の楽しさを知ってもらう入り口にもなると考えています。教科書で勉強するよりもeスポーツやYouTubeを通じて、学んだ方が楽しくて身に付きます。水戸にデジタル人財を増やすための取り組みの一環です」（和田氏）。

地方創生、地域活性化をキーワードに幅広い事業展開を見せるアプリシエイト。地元の茨城への強い愛を感じるが、同社が一番大切にしているのは、地域ではなく「社員」なのだ。

社員を「大家族」と捉え、彼らを物心両面で幸せにするのが、アプリシエイトの目指す会社。一人ひとりが主人公になれる会社を作り上げて、しっかりと利益を上げて、それを社員と社会に貢献するためにアプリシエイトは経営されている。

「当社は常駐先で働くメンバーが多く、社員の状況を常に把握するよう努めています。SESでは本社と社員のコミュニケーションが薄れがち。だから、当社では会社から積極的にコミュニケーションを取るようにしています。社員同士の関係性の質にこだわっているため、飲み会等の社員が集まる機会をとても大切にしています。部活動も活発です」（和田氏）。

新入社員は1年間、飲み会参加費が無料だという。新卒社員に限るが、1年目は会社の寮で生活し、共同生活で悩みを共有。仲間と一緒に助け合って成長してもらうように工夫している。

「新卒社員の最初の給料に、親孝行手当として1万円支給。遠方で働く若手社員には『オカン手当』と称して、段ボールに食料を詰めて送っています。月に20食分くらい送っているので、独り暮らしをしている社員のサポートになっていると思っています」（和田氏）。

経済的にも豊かになってもらうため、社員の収入面でも会社は可能な限り還元するようにしている。賞与は、昨年4.5カ月分、今年も5カ月分と手厚い。会社の事業計画を達成したら、全社員で旅行している。コロナ禍で2年間、行けなかった分は積み立てており、社会状況が許せば、次は社員みんなで海外に行きたいという。

「社員にもしものことがあった時のことを考え、積み立てを始めました。社員に万が一のことがあった場合、残された家族は無条件で雇用し、月給20万円を保障。子供が大学を卒業するまで学費を会社が負担したいと考えています。自分にもしものことがあった時に家族が守られる安心感を持って社員に働いてほしいと考えるからです。そして、定年制も廃止しました。引退のタイミングは自分で決めてもらいます。それまで、会社はその人にマッチした仕事を作り続けます」（和田氏）。

ワークライフバランスの充実に会社も積極的に関わっていくスタイルのアプリシエイト。自ら「おせっかいな会社」と称しているが、そのおせっかいが心地良い人には、働きやすい会社になることは間違いない。