ピアス株式会社

美容と健康の総合メーカーとして、化粧品・医薬品・機能性食品・施術サービスなど、美容・健康領域の多種多様な製品開発や技術開発を手がけるピアス株式会社。企画・マーケティングから研究開発・製造・販売に至る全プロセスを自社一貫体制で担っている。また百貨店、ドラッグストア、バラエティショップ、さらには医療機関など、幅広い流通カテゴリーに対応した多様なブランドを展開し、各ブランドにコンセプトを鮮明にしたロングセラー製品を擁している。

展開するブランドは、いわゆるデパコスでは「カバーマーク」「アクセーヌ」、ドラッグストア等で展開するブランドでは「デジャヴュ」「オペラ」「ナチュリエ」など、全30ブランドにのぼる。「アイプチ」や「塗るつけまつげ」など、今や一般名詞化したほど市場に長く愛されている製品も少なくない。そのひとつ、「デジャヴュ」ブランドのマスカラシリーズの累計売上は5000万本以上。ネイル、エステサロンといった施術サービスのブランドも年々存在感を増している。

あえて社名の露出を抑え、こうしたブランド名とコンセプトを前面に打ち出す「多ブランド戦略」で幅広い世代に固定ファンを広げているのも、確かな製品開発力を強みとするピアスらしい経営戦略といえよう。年商は約650億円、従業員数は2900名以上（2023年3月期）。事業所は大阪梅田本社に加え、東京・銀座、札幌、仙台、福岡にオフィスを置き、静岡県と滋賀県の生産拠点のほか、神戸には中央研究所まである。このほか中国やタイ、シンガポールなど、海外7カ国に事業拠点を有している。

そんな卓越した製品力を支えているのが、ユーザー目線と技術開発力の両面から吟味を尽くした「強い製品」だけを市場に送り込む、独自の体系的なマーケティング力だ。不変のテーマは、ユーザーにリアルベネフィット（本当の価値）を届けること。そのために、市場ニーズを深掘りし、想定ユーザーへのリサーチを徹底したうえでコンセプトを練り、試作を重ねる。こうして厳しい自社基準をクリアした製品だけを市場に送り出している。多種多様なロングセラーの「根拠」が、そこにある。

2020年4月、業務部内に「DX推進チーム」が発足。チームのミッションは、単なる社内デジタル環境の強化・刷新ではなく、手厚いマーケティングスキルをベースとする同社独自の製品開発力にさらに磨きをかけながら、ピアスらしいデジタル環境を構築していくことだ。

DX推進チームの詳細について紹介する前に、ピアスの組織面の特長と同社らしいカルチャーについて、人事総務部の山﨑 大氏にうかがった。

「社員数3000名規模の大きな組織なのに、経営トップと社員の距離がとても近い。ブランド別に独立採算の事業部制を敷いた、文鎮型の組織だからです。各ブランドがマーケティング機能を持ち、毎月必ず経営陣に対して新製品企画などのプレゼンを行います。事業部は30ありますから、メンバーは多くても50人、中には10人以下の事業部も。社員は20代、30代の若手が多いので、比較的早い段階で経営トップと直接話す機会が訪れます。この自立自走の環境で誰もが自然と鍛えられる。それも当社らしさです。DX推進チームにしても、社員の提案から生まれたボトムアップ型の部署です」（山﨑氏）

DX推進チームが属する業務部は、一般的には情報システム部に相当する部署。新しいシステムの検討から既存システムの改修まで、社内のIT施策や情報インフラ施策を一手に担う。

「当社で言う業務部とは、一般的に言う情報システム部に相当する部署ですが、業務部を名乗るのは、単にシステム化による課題解決ではなく、経営課題の抽出と本質的な課題解決するための“しくみ作り”をミッションとする部署だからです。最終的にはシステム構築することになりますが、社内各部門の依頼を受けて開発するだけではなく、業務部が主体となり最適な “あるべき姿” を描き具現化するといった活動を行っており、経営に近いポジションで業務改革を進める部署と言ってもいいでしょう」（谷所氏）

「2022年4月、業務部内に “DX推進チーム“ を発足。チームのミッションは、単なる社内デジタル環境の強化・刷新ではなく、従来の取組では解決困難な課題に対して、AI等の先進テクノロジーを駆使した上で “しくみ” を構築していくことです。従来から継続的に進めているシステム刷新(企画～導入)に加え、上記DXの取組を強化し、より良い解決方法で業務改革を推進していきます。」と話すのは、業務部長の谷所信彦氏。

DX推進チームは、毎月のプレゼンの席で業務部の若手が社長に直接提案したのをきっかけに実現した経緯がある。発足後は、さまざまな角度から「生成AIの活用」に取り組んでいる。これまで、マーケティングをはじめ各職種にまたがる多数の社員の叡智を結集しながら、エンドユーザーに支持される製品を生み出してきた。

「だからこそ私たちは、AIを単なる効率化・省力化の道具ではなく、デジタル技術と人間の前向きなコラボレートを促す新たな価値創造ツールと捉え、積極的に活用していきたいと考えています」。生成AIの活用については、化粧品の容器デザインの検討、新商品のネーミングなど、すでに実用レベルで実績を残している施策も少なくないという。

「容器デザインのプロジェクトでは、ベテランのデザイナーさんが『AIが提示した画像を見て発想の幅が広がった。より良いデザインを生む仕組みができた』と話していたとか。私たちが目指すのは、まさにそのような活用法です」（谷所氏）

ピアスのDX推進の取り組みはまだ始まったばかり。生成AIひとつをとっても、生産技術関連の膨大なデータの体系化、世界中の美容と健康に関する学術論文のテーマ別キーワード編集など、できることはそれこそ山ほどあり、どの施策も開発力のブラッシュアップに直結する。今後も、メークアップシミュレーションシステム開発をにらんだAR/VR技術、各種IoTなど、最先端のデジタル技術を同社の事業/業務に活かす施策に取り組んでいく方針だ。

「当面は生成AIを皮切りに、当社の業務に新技術をどう活かせるか、その事例づくりの段階と捉えています。中長期的には、DXの対象と範囲をどこまで広げるかを考えるのも、DX推進チームの役割。いずれはスマートファクトリーの実現やSCM（サプライチェーンマネジメント）のシステム化に絡む場面も…と想像しています」（谷所氏）

今後、DX推進の取り組みが加速する中で、経験豊富なIT人材が活躍できる環境が大きく広がりそうだ。課題抽出から解決策の策定・実行まで、関係者と協働しながら進めていくというスタイルとなっており、システム構築の最前線でプロジェクトをまとめ上げる醍醐味を知るPM経験者はもちろん、課題抽出などの最上流工程から関わってみたいと考える人にとっても最適な環境といえる。

JR大阪駅や阪急梅田駅を北に出ると、ほどなくエメラルドグリーンのカーテンウォールが印象的な地上130m・28階建ての「ピアスタワー」が見えてくる。業務部のオフィスはこの自社ビルにあり、原則として転勤はない。またIT戦略を一手に担う部署だけに、他部門に比べると平均年齢が高く、30代や40代はもちろん、50代もバリバリのコアメンバー。スキルの幅と経験値の高さが活きる職場と言えるかもしれない。

大きな組織らしく、ワークライフバランスも良好だ。フレックスタイム（コアタイムは11：00～15：00）制度を導入しており、業務スケジュールや勤怠管理は個々の社員に任されている。年間休日は125日。オフィシャルな休日と有給休暇をやりくりして海外旅行を楽しむ社員も少なくない。

最後に、期待する人物像について山﨑氏にうかがった。
「一言で言えば、チャレンジできる人。誰かのマネや前例踏襲は論外、常に自分の視点と意見を持ち、新しい挑戦を楽しめる方なら、間違いなく当社で成長できますよ」

この言葉に共感できる人は、ぜひ一度、カジュアル面談などで話を聞いてみることをおすすめする。