Beatrust株式会社

Beatrust株式会社は、人と人との「つながり」を生むエンタープライズ向けのデジタルプラットフォーム『Beatrust』を開発、展開する会社だ。大手IT企業出身の原邦雄氏と久米雅人氏が2020年3月に共同創業した。原氏は、Google日本法人での執行役員をはじめ、大手ITを中心に国内外の複数社で活躍した経験を持つ。様々な環境下で、「社会や会社で、個人が自己実現をするには何が必要か」と考え続け、一つの答えとして開発したのが『Beatrust』だ。

「自己実現」は、一人でするには限界がある。多くの人とつながり、協力しあうことでより大きな成果が望める。その「つながり」を個人に任せるのではなく、最初は組織としてリーダーを巻き込んで実行することで、文化として根付かせていく。

「まずは人材を可視化して、人と人が組織や会社を超えてつながりあい、協業しあえるプラットフォームをつくろうと考えたのです」と、開発の経緯を話すのは、プロダクトマーケティングマネージャーの真浦玲氏だ。

具体的には、『Beatrust』は、従業員一人ひとりのプロフィールデータを活用するプラットフォームで、2022年1月現在、二つの機能を提供している。一つが、経歴やスキル、経験、現在の仕事内容、趣味や特技などを可視化し、検索できる『Beatrust People』だ。ポイントは、テキストベースのプロフィール情報に加えて、従業員一人ひとりの特徴を表すタグを、データから自動抽出するエンジンが搭載されていること。人事管理情報や日々のコミュニケーションデータなどから、例えば「自然言語処理」「JavaScript」といったスキルや「事業開発」「PM」といった経験、さらには「ランニング」「食べ歩き」といった趣味まで、スキルや特性を自動的に推測・抽出してタグ化する。テキストデータをじっくり読み込む前に、その人となりを感覚的に把握することができる仕掛けだ。

従業員が数千人、数万人という規模の企業では、社内にどのような才能、経験を持つ人材がいるか把握することは難しい。例えば新しいプロジェクトチームを立ち上げるとき、プロジェクトに適した人材、その領域に詳しい人材を探すにはどうしたらいいか。「そのようなとき、もし全従業員のことを簡単に探せて、人となりを詳しく知ることができる方法があれば、より適した人材と出会えるかもしれません。『Beatrust People』は、それを可能にします」（真浦氏）

もう一つの機能が、マッチング機能の『Beatrust Ask』だ。プラットフォーム上でキーワードとともに質問を入力すると、回答できそうな従業員を自動で探し出し、相手方にも回答や協業を促す機能だ。従来なら、不特定多数に一斉メールを送るくらいしか解決方法はなかっただろう。「業務の相談でも、少しカジュアルな話題でも構いません。マッチング機能で的確な答えに効率的に到達でき、そこに共創・協業の機会が生まれます。新たな人とのつながりが生まれるというわけです」（真浦氏）

『Beatrust』は、よくあるタレントマネジメントシステムとは違う。タレントマネジメントシステムが、人事業務を取り扱う部署や経営者のために従業員の情報を一元化して可視化・管理し、人材戦略に役立てるためにあるのに対し、「『Beatrust』は、従業員にとってのプラットフォームであるという思想を特に大切にしています」と真浦氏は言う。

『Beatrust』は、従業員の自律的な協業を起こすことに軸を置く。「従業員がお互いのことを知りたい、相談したい、助け合いたいという想いに応えて、誰かとつながることができ、新しい価値が生まれる。『Beatrust』は目的やアプローチが違うのです。既存のタレントマネジメントシステムと役割を補完しながら、”タレントコラボレーション”という分野の実現に挑戦していきたいと考えています」（真浦氏）

では「つながり」は、何を生むのか。いろいろな可能性があるが、その一つが「イノベーション」だ。新しい価値を生み出すイノベーションを必然的に起こすことは難しい。偶然を必然的に生み出すものが「つながり」だ。

「アイデアは、紙から生まれるものではありません。人が考え、誰かと話す。そのコミュニケーションや協業から生まれ、形になっていきます。『Beatrust』であれば、数千人の従業員がいたら、何百万通りもの組み合わせで対話ができる。アイデアが出たとき、共有できる人を自発的に見つけられる環境のほうが、偶然の出会いやきっかけが必然的に増えて、実現の可能性が上がるでしょう」（真浦氏）

もちろん、導入するだけでは不十分だ。『Beatrust』はあくまでも基盤。そのうえで何をするか、どんな課題を解決するかは企業ごとに異なる。Beatrust社では、導入後のオンボーディングで課題の抽出、既存のコミュニケーションツールとの連携などを丁寧に行い、それぞれの企業に『Beatrust』を根付かせる。

このような思想、アプローチに共感し、既にAGCやライオン、TBネクストコミュニケーションズ、住友商事といった数千名規模の大企業で利用が始まっている。このうちTBネクストコミュニケーションズは、凸版印刷とベルシステム24ホールディングスの合弁会社だ。事業内容もカルチャーも違う2社が新たにチームをつくるにあたり、『Beatrust』が威力を発揮している。オープンイノベーションも盛んな昨今、会社同士をつなぐなど、さまざまな活用可能性を示唆する事例だ。

このユニークなツールを展開するBeatrust社とはどのような会社か。真浦氏は言う。

「社員が醸し出す雰囲気は、言うなれば『シニアでもあり、ときに少年らしくもあり』といった感じでしょうか。社員の多くは外資系企業や日系大企業で働いた経験を持ち、企業文化や協業のあり方について、様々な景色を見てきたうえで、当社のビジョンやミッションに共感して入社してくれました。みんな、失敗も成功も経験し、業務分野の知識やプロフェッショナリズムはもちろん、相手の理解や状況を汲んで接する術や合理性、論理的な思考力が自然と身に付いている人たちだと感じます。その土台の上に、Beatrustが描く世界観に共感し、実現しようとするパッションも持ち合わせている。冷静だけど熱い。このバランスがとても心地よいチームだと思います」

Beatrust社自体が、『Beatrust』の目指す自律的協業を起こすべく、同社では三つのバリューを大事にしている。それは「The Everybody Leader：誰もがリーダーになる」、「Respect, Inspire and Appreciate：尊敬と感謝と刺激を与え合う」、「Ignite Your Customers：顧客に点火する」だ。そして実際に、誰もが自分の得意領域のリーダーとしてふるまい、互いにリスペクトしあう。「顧客に点火する」には、お客様だけではなく、社内外で仕事をともにするあらゆる相手のモチベーションや熱意に勢いをつける、ワクワクさせるという意味を込めた。

また、各人の働き方やライフスタイルを尊重する同社では、コロナ禍以前から、リモートワークが根付いていた。例えば静岡県や群馬県に居住し、家族との時間や趣味を大切にしながら働き、自己実現を大切にしている社員もいる。同社にとっては当たり前の光景だ。一方でオフィスに集い、対面で話す時間の貴重さや効率も尊重する。原則として金曜日は出社日。「金曜日は笑顔が増えますね。楽しみにしています」と、真浦氏も笑顔を見せる。

みんなの誕生日を全力で祝うなど楽しい一面も。「上司、同僚といった堅い関係ではなく、子どもの頃の部活、チームのような感覚で動いています」と真浦氏。社員同士が共依存することはないが、互いを信頼し、不安を抱えたときや何かに挑戦するとき、背中を預けられる関係性があるという。

「このような会社で、ビジョン、ミッションに共感し、日本にないプロダクトを生み出し広めていくことに魅力を感じてくれる仲間と、これからの『Beatrust』をつくっていきたいと考えています」。真浦氏からのメッセージだ。