株式会社TSI

大手アパレル企業の、株式会社TSI。ECの飛躍的拡大やデジタルジェネレーション事業といったDX戦略に力を入れていく同社では、ITエンジニアやWebデザイナー、EC運営等のデジタル人材を求めている。

同社は、国内事業13社・海外事業7社の計20社で構成されているTSIホールディングスグループの中核企業として、事実上グループ全体の事業戦略を統括・運営している存在だ。同グループは56のブランドを擁し、全国のファッションビルや百貨店、GMS、アウトレット等の約850の直営店舗や、自社ECサイト及びショッピングモールへの展開をはじめ、小売店への卸、輸出を行っている。

ブランドポートフォリオとしては、同社オリジナルを主体に、海外有名ブランド（ライセンス製造及び仕入）も含め、“Wellness & Lifestyle”“Street & Culture”“Fashion Capital”“Digital Generation”の4系統・計56ブランドを展開。働く女性のビジネスウェアから、ゴルフウェア、ストリート系ファッションまで幅広いのが特徴だ。

特長的なブランドとしては、ストリート系ブランドとして名高い『Stüssy』や『HUF』が挙げられる。「アメリカ発の『HUF』は10年近く前に買収しているが、日本企業でこうしたグローバルなストリート系ブランドを擁しているのは当社だけ」と統合人事部人事課長の金井健悟氏は胸を張る。ゴルフ系では、『PEARLY GATES』や『PING』といったトップブランドをそろえる。

多彩なブランドを擁していることで、経営的なリスク分散が図られているとともに、社員にとっては自らの志向の変化に合わせて社内でキャリアチェンジができるというメリットもある。さらに、例えばキャリア系ブランドとゴルフ系ブランドがコラボレーションして新たなテイストの服を生み出すといった取り組みも行いやすい。
「アパレル界では他社ブランドとのコラボレーションもよく行われていますが、当社はそれが社内でできてしまうというメリットがあると言えます」（金井氏）。

こうした刺激的な環境から、時代を捉えたファッションアイテムを次々に送り出している。

TSIは、2011年6月、株式会社東京スタイルと株式会社サンエーインターナショナルというアパレル大手同士が経営統合し、共同持株会社としてTSIホールディングスを設立してスタートした。この両社はいずれも1949（昭和24）年創業という日本のアパレル業界の老舗。東京スタイルの“TS”と、サンエーインターナショナルの“SI”を繋げて“TSI”という新社名とした。その後、2014年3月に組織再編が行われ、同社が設立される。

「2011年の経営統合は、退潮傾向にあった日本のアパレル業界にあって生き残りを賭ける決断でした。両社のトップが親しい間柄にあったことと、保有ブランドタイプの重なりが少なく相互補完性が高かったことが大きな要因となりました。アパレル大手同士の経営統合は業界初のことで、このニュースは業界関係者などに驚きをもって伝わりました」と金井氏は述懐する。

一方で、“水と油”と言われたほど社風の異なる両社の統合に当初は苦労し、軌道に乗せるまで年数を要した。さらにコロナ禍で全ての店舗施設が閉店状態となるなどの逆風も。
「幸い、財務体質が良かったので乗り越えることができました。その後、不採算の店舗やブランドを整理し合理化を図ることで、現在、情勢は上向いています」（金井氏）。

そんな同グループは、2022年4月に2025年までの中期経営計画“TIP25”を策定し、「脱アパレルonly企業」という変革の方向性を打ち出している。掲げたパーパスは、次のとおりだ。

【ファッションエンターテインメントの力で、世界の共感と社会的価値を生み出す。】

その上で、「すべてのステークホルダー（社会・環境・顧客・株主・社員）にとって世界一幸せなファッションカンパニーを目指します」というWILLを謳っている。
その施策の基軸となっているのが、「成長領域の明確な定義と集中的な投資」や「エンターテインメントの追求による顧客獲得」。後者は、従来の“ブランドの洋服をつくって販売する”だけでなく、“ブランドの持つ世界観を周辺のモノ、コトに広げる”エンターテインメントコンテンツの創出という新たなコミュニケーション手法の開発強化を図り、ビジネスチャンスを広げるというものだ。スケートボードやゴルフなどのイベントによるコミュニティ形成などが考えられている。

そして、「EC事業の大幅拡大に向けた企業構造改革」というDX戦略が挙げられる。EC化率40％という“飛躍的拡大”を目指すべく、CRM統合分析インフラの構築や事業の“染み出し”などによって、ブランド個々ではなく事業領域として戦える「1,500万人会員プラットフォーム」の構築といった戦略が打ち出されている。また、自社工場を戦略的に活用した“ブランド×工場×デジタルによる新しい販売”という“F2Cモデル”や、メタバースへの展開にもチャレンジする構えだ。

TSIの社員数は約3,300名（グループ全体では約5,000名）。その風土の特徴について、金井氏は次のように話す。
「TSIは、2021年にそれぞれ多様なブランドを運営する8社を吸収合併する形で組織再編を行いました。このため、社内のカルチャーも一気に多様化されたのです。私のようなジャケットを着用している者もいれば、ジーンズを着崩したストリート系ファッションの若手社員やボディコンシャスな服を着た女性社員もいるなど、カオスな状態となりました。一般的にアパレル企業の社内風土はそのブランドのテイスト感で統一されているものですが、当社には当てはまらないのです。よい意味で、刺激的な環境があると言えますね」

そんな集団を束ねているのが、2022年4月に中期経営計画とともに打ち出された前述のパーパスと「#ファッションの力を信じよう」とのメッセージである。
「このパーパスの実現に向けて、全社員の力を束ねていくことになります」（金井氏）。その実現のために、同グループでは次の「6つの価値観と約束」を掲げ、人と組織の在り方の基本としている。

●脱固定概念：
　型破りの先に未来がある。
ゼロベースから考え、新たな価値を創り出そう。
●エンターテインメント：
　社会に、熱狂をもたらすために。
全員がユニークなエンターテイナーであろう。
●アジャイル：
　楽しく変化しよう、誰よりも早く。
組織やブランドの垣根を超えて、化学反応を起こし、成果を生み出そう。
●オープンマインド：
　素直な心で、未知なる仕事や仲間と出会おう。
　多様な価値観をリスペクトし、ともにチャレンジしよう。
●学びと成長：
　学びに終わりはない。
　自身のキャリアをデザインし、個人、そして、組織の成長へ繋げよう。
●フェア・ウェルネス：
　最高のサービスを世界に届けるために、まず私たち自身が健やかであること。
　すべての仲間に笑顔あふれる毎日を届けよう。

このパーパスや「6つの価値観と約束」は、人事考課の定性指標項目としているほか、ワークショップの開催や社内報での周知、PCなどに貼るステッカーづくりなどを通じて浸透・推進を図っている。

人材育成の観点では、英会話などの資格取得のほか、受講し放題のe-ラーニングの提供などの自己啓発支援メニューを手厚くそろえている。また、年2回の人事考課のほかに、管理職との1on1によるキャリアビジョンおよび進捗状況の確認なども行われている。
働き方は部署ごとに異なるが、「エンジニアなどのデジタル系社員は、オフィスとリモートのハイブリッドで、フレックスタイム制による柔軟な働き方ができている」と金井氏。
年間休日が130日と多いことや、育児による時短勤務は末子が小学校卒業まで認められるという点は大きな魅力だろう。

そんな同社では、パーパスや「6つの価値観と約束」に共感する人材を求めている。「脱アパレルonly企業」に向けたDXに関わる業務は、手応えのあるものに違いないだろう。