株式会社HOKUTO

リリースからわずか4年ほどで、会員数10万人、全医師の約3分の1が利用するまでに成長したサービス『医師向け臨床支援アプリ『HOKUTO』。その開発・運営をしているのが株式会社HOKUTOだ。

「医師は、医師免許を取得した時点で学習が終わるわけではありません。最適な医療を患者さんに提供し続けるために、日々更新される医学情報を収集し、臨床現場で活用していかなければなりません。しかし、多忙を極める業務の中、急速に増大し続ける医療情報にキャッチアップし、新しい知識を習得する負担は並大抵のものではありません」（CTO岸本）。

『HOKUTO』は、この課題に貢献できているからこそ、多くの医師に使われるようになった。HOKUTOアプリの機能は、大きく二つに分けられる。
一つは、膨大な医療情報のインプットをサポートする「メディア」機能。最新の医療ニュースをタイムライン形式でチェックすることができる。配信コンテンツは専門領域等を基にパーソナライズされており、日々の診療に役立つ情報を、隙間時間に気軽にキャッチアップすることが可能だ。
もう一つは、臨床現場で必要な医学情報を引きだすサポートをする「ツール」機能。医学用語に特化した独自の検索エンジンが搭載されており、エビデンスに基づく医学情報データベースから、迅速にアクセスできる。また、これらの機能は独立しているのではなく、相互に作用し合う形でプロダクトが成り立っているのも特徴だ。

「例えば、抗がん剤の治療スケジュールや投与量について、基本的な知識は十分にあるものの、個々の患者さんの状態や治療経過に応じて最適なスケジュールや量を最終確認したい場合があります。薬の種類や治療期間、患者さんの年齢や体重、合併症などによって投与量が変わるため、慎重な判断が必要です。そんな時、HOKUTOで適切な投与スケジュールや投与量をすぐに参照できれば、結果的に患者さんのためにもなります。」（CTO岸本）。

『HOKUTO』はスマホで利用することができるので、臨床現場で困った時にすぐ検索できるという利点がある。じっくり腰を据えて医療情報を活用したいというニーズに応えるため、Web版もリリース。スマホ版とともに、機能の充実やさらなる利便性向上にも努めている。しかも、会員登録するだけで、無料で使えるとあって、今後も利用者は着実に増えていくだろう。

『HOKUTO』を無料で提供しているのであれば、何でマネタイズしているのか。それは、『HOKUTO Marketing Solutions』事業だ。

製薬企業等の医療系企業に対し、純広告枠提供やデータコンサルティングといった形で、デジタルマーケティングを支援することで収益化している。
「医療業界では薬機法に基づく広告規制があるため、MR（医療情報担当者）による対面での情報提供が主流でした。しかし、近年はコロナ禍を契機に強化された病院の訪問規制や営業コンプライアンスの強化等の影響によって、デジタルマーケティング市場が急速に成長しています。現状、SAM（ある事業が獲得し得る最大の市場規模）は1,000億円ほどですが、今後10年で市場は2倍以上に成長すると予測されています」（CTO岸本）。

しかし、市場規模が拡大していったとしても、医療業界には強力な既存企業が複数存在する。そのため、さらなる事業成長を実現するには市場における差別化が欠かせない。
「先行している企業のサービスはWebサイトを中心としたメディアが多く、医師がそのサービスを利用するタイミングも診療時間外のケースがほとんどです。診療中にパソコンを開いて情報を確認するのは難しいという現実的な理由もあるのでしょう。一方、当社のサービスはスマホを中心としたメディアであり、臨床現場で必要とされるサービスを提供しているという特徴があります。そのため、診療時間外だけでなく、診療時間中も医師との接触タイミングがあるのです。つまり、ほかのサービスにはない独自のアクティブ会員基盤と診療行動に合わせた医師へのアプローチが可能なわけです」（CTO岸本）。
その効果のほどは、国内売上高トップ15社のメガファーマのうち、80%以上の企業に導入実績がある点からも読み取ることができる。

また、同社は医学生の病院就職を支援する国内最大の研修病院口コミメディア『HOKUTO Resident』も運営。毎年、医学部卒業生の80%以上が登録している人気サービスであり、登録者の大部分が医師となってから『HOKUTO』の利用者になっている。このように会員基盤が拡大していくことによって、マーケティング支援事業の有用性も高まることが期待できる。

同社の急成長の理由を考える際、見逃すことのできないポイントが、独特な企業カルチャーだ。そして、そのカルチャーを醸成している核となっているのが、三つのバリューだと言える。
『For Objective』：明確な目的を設定し、達成することに執着する
『Be Open』：常に真実を追求し、情報共有においても議論においてもオープンな姿勢で臨む
『In Partners』：他の人の視点を取り入れた上で、ミッション達成に最も近づけるような行動をする

スタートアップではスピードを優先するあまりに見切り発車することがよくある。失敗したら方向転換すればいい、という考えもある。しかし、同社では“とりあえず”行動に移すということは推奨されていない。
「目指すべき目的を明確にした上で、そこに到達するための仮説検証をしっかりと行います。議論をする際も上司部下関係なく、良い成果、良いプロダクト、ひいてはアウトカムのためにオープンに意見を出し合うカルチャーが根付いています。非常に目的合理性の高い組織です」（CTO岸本）。

同社は少数精鋭体制ということもあるが、三つのバリューに基づいて考え、行動する人達がそろっているため同じ方向を向きやすく、推進力が生まれやすいという強みがある。なおかつ、進んでいる方向が間違いだと判明した時には、データに基づき方向修正を行う柔軟性も兼ね備えている。
「そのため、採用においては当社のカルチャーに合うかどうかをとても大切にしています。合理的な選択を好む人なのかどうか、そして、達成することに執着して最後までやり切る力があるのかどうか。そういう人であれば、やりがいを実感しながら働けると思います」（CTO岸本）。

合理性を突き詰めた会社と聞くと、冷徹な会社をイメージするかもしれないが、そんなことはない。全ての社員が潜在能力を最大限に発揮できるように環境の整備にも力を入れている。例えば、フルリモート、フルフレックス制を導入しており、副業も認めている。社員の4割以上が子育てをしながら働いているそうだ。
「当社はユニコーン企業を本気で目指していますし、実現できる可能性もかなり高いと思っています。現時点であれば、初期メンバーの立場でその成長過程を当事者の一人として経験できます」（CTO岸本）。