株式会社ユヒーロ・ユー

2001年7月3日の創業より16年目を迎え、次なる未来へと向かうため、持続可能な新しいビジネスモデルの構築へと挑戦を始めた株式会社ユヒーロ・ユー。2014年秋、創業者の伊藤 寛之氏による「社長やめます」宣言をはじめ、オフィスを無くすことによる多様な働き方の推進や、営業やプロモーション活動に頼らずに社員一人ひとりが生み出す付加価値に期待するなど、新しい経営にシフトしてきた。旧来の会社組織ありきで仕事をしてきた人にとっては、自身の技術や能力をさらなる高みへと引き上げてくれる注目の企業といえるだろう。

デジタルエージェンシーから事業会社まで、Webに関するさまざまな課題解決を行ってきた同社には、マーケティングからインフラの構築、システム開発、運用・保守に至るまで、個人またはチームとして磨き上げて来た高度な技術力と豊富なノウハウが蓄積されている。

もともと同社は、最先端のコンピューターが導入された慶應義塾大学環境情報学部で学生時代を過ごした伊藤氏が、卒業した翌年に仲間とともにキャンパスの近くで創業した会社だ。また、同時期に「最先端の技術を社会のために役立てたい」と情熱を抱いた学生・卒業生が集まり、同じ志を抱いた10名前後の学生で“uteam（ユーチーム）”なるテクノロジーラボも発足させた。

現在も、同社のコアメンバーの3分の1は創業時の“uteam”のメンバーだ。データベースの運用・監視システム「HiTo!（ハイトゥー）」の開発から、ベンチャー企業のシステム受託開発のほか、電通グループのデジタルエージェンシーの一員として大きな案件に携わってきた時期も含め、今日に至るまでの道程すべてを“uteam”と共有している。

同社が会社組織として大きな転換期を迎えることになったのは、電通グループのデジタルエージェンシーの一員として仕事に関わるようになった2006年以降のこと。デジタル系の広告代理店の間で評価を高め事業拡大へと向かう一方で、数百人いるような組織体の一部に組み込まれたことが結果的に現場を疲弊させ、もっとも大切にしてきたはずの仲間がなおざりにされてしまったのだ。

ビジネスとしては順風満帆ではあったが、仲間を一番に思う伊藤氏の胸の内には、広告代理店に依存した経営スタイルから脱却したいという気持ちが芽生え、この頃から事業会社との直取引へとシフトする経営的な転換が行われていった。

2011年頃からふたたび20名前後の組織へと立ち戻り、イチから営業や自社のプロモーションに取り組むことになるが、コンサルティングから開発、運用までワンストップで仕事をするのは非効率で、強みとする技術力を分散させてしまうことにもつながり兼ねないというデメリットもあった。そこで、今日に至るさらなる改革が推し進められた。

その改革がカタチとなってあらわれたのが、2014年秋に伊藤氏が掲げた「社長やめます」宣言だ。フラットな組織を模索する挑戦の一環として、まず、広告代理店から与えられる仕事をするだけではなく、自分たちの強みは何かを一人一人が考えるところからスタートしようという、抜本的な意識改革を行った。
その上で、営業や自社のプロモーションにも取り組むことをやめ、さらに2016年秋からは会社という組織の体裁を整えるためのオフィスも不要とする「オフィスレス」の働き方にも取り組んでいる。また同時に、将来的には社員一人ひとりが稼いだ売上げを100％還元を目指すことも明示された。

このような改革により、同社では従業員は会社に所属しながらも、究極とも言える自由な働き方を実践しているのだ。会社の役割としては、自由に働く社員一人ひとりの仕事が円滑に運ぶよう、可能な限りのサポートをすることが最も重要となる。そのため、志をもって仕事に臨んで来た“uteam”のメンバーのように、自分の興味・関心のある分野で技術力や経験を高めていきたいという現場のエンジニアの考え方を何よりも尊重している。

オフィスレスに取り組みはじめた2016年秋以降、同社では仕事と生活の調和を促す『ワークライフバランス』ではなく、「働き方を組織が決めるのではなく、あなた（自分）で決める時代である」という考え方に基づく『ワークインライフ』を推進している。

実際に同社では、育児や家事と両立させながら自宅で仕事をしているエンジニアや、一年のうち3ヵ月は母国のマレーシアに滞在して仕事をするウェブディレクターなど、柔軟な働き方を選択する社員も多い。

究極とも言える自由な働き方が実践できるのは、自己管理能力の高いメンバーが中心になって主体性を持って仕事に取り組み、活躍しているためであろう。また、技術的なサポートのみならず、お互いがお互いを補い合う風通しの良い関係性がそれを可能にしているともいえる。

会社全体のコミュニケーションを図る場としては、月に一度、オンラインにて全体会議が行われている。ここでは事業の進捗についての情報共有が行われるだけではなく、専門家を招いて遊びを取り入れた社員研修を行うなど、より円滑なコミュニケーションを深めるための取り組みも行われている。

伊藤氏は、近い将来、同社は大きく2つの方向性に分化すると予測しているという。一つは、自分の責任と裁量で売上げたものを100％自分の報酬として受け取る、プロフェッショナルを極めた人の働き方。そしてもう一つはそれを自社のインフラとして仕事に活用する人の働き方で、これは新しいビジネスモデルを創り上げる推進力になると考えられている。

そして同社の新しい方向性の根幹と成る考え方が、伊藤氏が志を同じくした“uteam”を運営するなかで導き出した「ユヒーロファーム構想」であるという。「ユヒーロファーム構想」とは、過去・現在・未来にわたって同社で働く仲間らとともに持続的に発展可能な新しいビジネスモデルを創り上げていくという構想で、具体的には1つのビジネスモデルに対し、会社単位ではなく適切な人材を集める企業モデルを指す。これにより、一緒に仕事をするメンバー全員がお互いに刺激をし合うことで、一人ひとりの能力が高まり、さらには次世代を担う人材を育成することにもつながると、伊藤氏は考えている。

一人ひとり多様な価値観を持った生き方を尊重する働き方や、俯瞰的な視野を持って働くことをもう一度見つめ直してみたい方にも、同社が実践する「ワークインライフ」はまだ見ぬ気づきをもたらすだろう。