アジャイル株式会社

アジャイル株式会社は、2006年の創業からWebシステム開発において、プロジェクトの最前線に技術力を提供し続けてきた。自社エンジニアの技術力をシステム開発のプロジェクト完遂のために提供するシステムエンジニアサービス(SES)会社として、エンジニアの育成とマネジメントに、心を砕いてきた歴史がある。

同社では近年、プロジェクトの商流を上げる取り組みを積極的に進めている。これまで2次請け・3次請けといった“深い商流”の仕事も、クライアントが求める結果を提供できるように、プライドを持って取り組んできた。しかし、システムインテグレーション(SI)業界も時代とともにプレイヤーが変わり、商習慣やプロジェクトの進め方が変わってきたという。

「私は新卒から30年以上ソフトウェア業界で働いてきましたが、社会も人の価値観も変わる中、SI業界でもエンジニアを単なるビジネスの道具と考える開発会社も増えてきました。SESはエンジニアリソースを『人工数』で計算するため、仕方がない面もありますが、エンドユーザーに近いポジションでプロジェクトに参画することで、エンジニアのスキルを最大限に生かせると考えています」(代表取締役・平原重信氏)。

SESで働くエンジニアにとって「プロジェクト選定」は、働き方に大きな影響を与える非常に大切な要因。「高単価の案件に入ったら現場が炎上しており、大変な目に遭った」そんな話を経験したり、耳にしたりするエンジニアも多いだろう。同社では、自社エンジニアに健やかに働いてほしいという思いから、案件の選定に工夫をしている。

「SESの案件は、システム開発会社の間を駆け巡り、どれがどこの現場の案件か見えづらくなっています。A社の案件とB社の案件が実は同じ、といったケースも少なくありません。当社ではSES案件の可視化ツールを導入して、自社エンジニアをアサインする際には、案件を精査しています。今後、営業の人材を増員して会社の規模拡大を考えていますが、その際も、エンジニアを守る目的で案件精査にはこだわりを持ち続けたいと考えています」(平原氏)。

長くソフトウェア業界で働いてきたが、自身はエンジニアではない平原氏。しかし、エンジニアをリスペクトする気持ちは強く、自社エンジニアが快適な環境で働き、豊かなエンジニアライフを送れるように、あらゆる方面に気を配っている。

同社は、SESやエンジニア派遣事業をメインとしながら、自社プロダクトの開発も手掛けてきた。過去には、オンライン写真販売サービスを運営。学校の遠足や会社の社員旅行の際にプロカメラマンが撮影した写真を通販で購入するというサービスだ。

そのほか、一斉メールとメーリングリストがリンクするメール配信サービス『つながるメール（つながめ）』を開発。連絡メール、アンケートメール、安否確認メール等として利用でき、マーケティングツールとしても活用できる。

最近の事例では、コンサル会社と共同でコンサルティング事業を立ち上げた。業務スキルと業務プロセスを可視化し、マトリックスで分析。それを基に、業務効率化や人材の最適配置等を実現する。

「業務スキルと業務プロセスのコンサルをしている会社がそれぞれありました。業務スキルを突き詰めると業務プロセスに行きつき、反対もまたしかり。ならば、業務スキルと業務プロセスを見える化して分析し、業務効率化、生産性アップに繋げようという考え方で、コンサル会社2社と当社で新規事業を始めました。当社の役割は業務効率化、生産性アップを実現するためのソリューション提供。コンサルからシステムの実装までワンストップで提供する体制が強みです」（平原氏）。

SESやエンジニア派遣事業は、確実にキャッシュフローを生み出す一方で、利益やアセットを積み上げるのが難しい。安定経営を目指し、同社ではSESやエンジニア派遣事業といったフロー型のビジネスモデルだけでなく、新規事業で「ストック型ビジネス」にも積極的にチャレンジしていく。

「自社サービスの開発や新規事業へのチャレンジは、会社の安定経営には欠かせないと考えています。SES事業で生み出した資本を活用して、ストック型ビジネスモデルの事業を開拓しています。今後も、新しい事業には積極的にチャレンジしたいと考えており、社員にとってもスキルアップのチャンスにしてほしいです」(平原氏)。

平原氏は、フィーチャーフォンでキャリアメールの送受信やWebページ閲覧等ができる世界初の携帯電話IP接続サービスのコンテンツビジネスで起業したのが、ビジネスパーソンとしてのスタート。その後、会社を安定させるためにSESやエンジニア派遣事業を始めたという過去があるのは、同社が他のシステム開発会社とは異なる、ユニークな点かもしれない。

創業から約20年、エンジニアが働きやすい環境を守り続けてきた同社。現在の所属エンジニア数は12名。これまで10名前後の社員数で推移してきた。所属エンジニアの数に比例して売上も収益も増加するSES事業においては、エンジニア増員が事業拡大には不可欠。けれども同社では、やみくもにエンジニアの数を増やすのではなく、所属エンジニア一人ひとりと真正面から向き合って、彼らの幸福を実現する道を選んできた。

「私の目が届く範囲で事業を進めたいという思いがあり、無理にエンジニアを増員せず、地道に事業を続けてきました。ただ、私も引退が視野に入る年齢になり、会社の今後、特に若いエンジニア達が長く働ける会社にしたいという思いがあり、エンジニアの増員計画を進めることにしました。後を継いだエンジニア達で経営を続けられるよう、会社の経営基盤を安定させたいです」(平原氏)。

同社は東京に本社を置く会社だが、メインクライアントは名古屋の会社。その関係で現在の所属エンジニアも東京が2名に対し、名古屋が10名。今後も東京と名古屋のクライアントと取引を続け、それぞれ増員を進める予定だ。

「現在のメインは名古屋ですが、今後は東京のエンジニアも積極的に増やしていきます。私は関東在住で、新規事業のコンサルティングも東京をメインに動いている状況です。名古屋での現場が大きくなったのは、クライアントから信頼を勝ち取った現場で働くエンジニアの功績だと思っています。会社としては、今後もエンジニアの働き方やキャリアをバックアップしていきたいです」(平原氏)。

エンジニアの数を無理に増やさないで、ここまで事業を進めてきた同社。メンバーが少ないメリットもあって、厳しい上下関係はなく、平原氏も含めてフランクなコミュニケーションを基本にした企業カルチャーが特徴的だ。

「気の合う仲間と楽しく働きたい。当社の20年は、この一言に尽きます。エンジニアにとって働き心地の良い環境を作ることが経営者である私の務めで、そのためにいろいろ試行錯誤をしてきました。会社規模を拡大する決定をしましたが、企業カルチャーをないがしろにしてまで、売上や収益を追い求めるような会社にはしたくありません。エンジニアが幸せになれる会社。それがアジャイルというシステム開発会社です」（平原氏）。