元々起業の意志はお持ちだったのですか。
滋賀大学経済学部企業経営学科出身で、在学中から起業を意識していました。23歳の時に「着物業界を変えたい」と思ったのですが、基礎知識や経験がなければ何も始まりません。そこで、最も専門性を磨くことができそうな会社に転職し、ひたすら勉強させていただきました。 第一子を授かったことを機に呉服メーカーを退職し、自宅で着付け教室を開いた時も、開業届を出しただけの小規模な教室で、月収500円からのスタートでした。簡単な看板を玄関に立てかけたことが始まりで、ポツポツと近所の生徒さんが来てくださるようになった頃にブログを始め、Twitterも始めたら、受講の申し込みが増えました。YouTubeを始めると、さらに来てくださるようになり、いつの間にか事業が広がっていました。そういった中で、業界大手の企業様とコラボ商品を販売した時、収益が個人事業のレベルではなくなったため法人化しました。
着物総合企業の構想に至ったのはいつですか。
23歳の時には既にありました。現在のように細かくは考えられていませんでしたが、タンスの着物を循環させるためにどうすれば良いか、職人さんにクローズアップしたい、といったことは考えていました。そういった漠然としたイメージが、呉服メーカーに勤め、起業し、様々な事業を展開していくうちに、だんだん解像度が上がってきたという経緯です。 これまでは、「すばらしい日本の技術や文化を存続させたい。自分がやらねば誰がやる!」そんな気持ちで必死ででもがきながら、目の前にあることを一つひとつ全力で取り組んできました。着付けの相談が寄せられると、すぐに動画を撮影して…というふうに、周りの方に支えていただきながらコツコツ積み重ねてきました。しかし、今年に入って、一旦俯瞰して考えるべきかもしれないと思いました。母が他界したことがひとつのきっかけです。このままがむしゃらにやっていても、年齢を重ねていけば体力も落ちてきますし、私自身の命にも限りがあります。仕組みとして成り立たせるにはどうすれば良いかを考え、明確に方向性を定めたのは、今年に入ってから。法人化して4年の間に、思った以上に点が沢山できている感覚がありました。条件は揃ってきましたし、ある意味競合がない状態なので、大きな目標を掲げました。
競合がないとはどういうことですか。
当社は着物にまつわる様々な事業を展開しており、一つひとつの事業には、個別に沢山の競合が存在します。しかし、タンスの着物を循環させるために「着物総合企業を目指している」企業や団体は、おそらく存在しません。なぜならば、目先は儲からないからです。 『make up kimono』がその最たるものです。このような取り組みは、お金だけがかさみます。保管場所の問題や在庫リスク、人件費も非常に高い。腕の良い職人ならなおさらです。しかも、儲かるか儲からないか分からない不確定要素が多いビジネスに、どれだけ最初にお金を注ぎ込めるかと考えれば、おそらく今のところ、本気でやる人はいないのではないでしょうか。 過去にも同様のビジネスはあったようです。しかしビジネスとして続けていくのは困難で、職人さんからは「またか」と言われました。しかし最近は、「これまでとは違う。ここまでやってくれるなら、私達も頑張る」と言ってくださるようになりました。 ソーシャルメディアでの影響力と、着付け教室という確固たる母体があるからこそ、当社は社会的意義のある「職人支援」にチャレンジできています。
職人さんとの繋がりはどのようにしてつくってこられたのですか。
呉服メーカー時代にお世話になった方々との繋がりで、良心的で腕の良い職人さんと一緒に仕事をさせていただいています。 持ち込まれる古い着物は私にとってはどれも素晴らしいお品ですが、状態が様々で、どうしてもシミが取れないものも沢山あります。「やりかたはいくらでもあるけど、あまり高額になるとお客様が購入しにくいし、ミシン刺繍でやろうか」とか、「それなら図案が必要だ」となれば、伝手を辿りながら素敵な職人さんと出会い新たな商品が生まれます。 どうしても着物として再利用できないものは、ポーチ等の小物にしますが、私は着物が好きなので、できるだけ着物として再活用したいと考えています。また、古くから培われてきた職人技を途絶えさせないために、着物の制作に関わる熟練の職人さんにお仕事して頂きたいと考えています。 職人さんに信用していただくには、お仕事をお渡しし続けるしかないと思っています。口でなにを言っても、誠意は伝わりません。特定の職人さんに偏らないように気を付けながら、途切れなくお仕事をお願いするのが当社の目標です。作り手がいて初めて着物が楽しめるという考えから、職人の賃金をいたずらに値切るようなことはしてはならないと思っています。今は投資するフェーズだと考え、赤字でも攻めの姿勢で取り組んでいます。
現在は、どのような組織でどのような方針を立て、お仕事をされているのですか。
これまでは自宅で開業していた着付け教室の生徒さん、Instagramのフォロワーさんだった方々を採用してきました。現在は『wake up kimono』ブランドのチーム、 『着付師養成講座』のチーム、そして私が担う『マーケティング』の3部門に分かれて業務を行っています。 また、当社のミッションやビジョンを実現するため、五つの行動指針を立てています。 (1)好きな事を仕事にできる環境、人、すべての事柄に感謝します (2)最後まで責任を持ってやり遂げます (3)素直に受け止め、自己成長に繋げます (4)自ら考え、すぐに行動します (5)人や環境のせいにせず、自分を律します 特に大切にしているのが感謝の気持ちです。何においても、一緒に仕事をする人や職人さん、お客様に対しても、クレームがあったとしても感謝できる心持ちでやりましょうと、日頃から話し合っています。着物のことならなんでも頼れる着物総合企業になるには、沢山の人の力が必要です。根底に「感謝の心」を持つことで、人との関係性はより豊かになりますし、個々の内面も充実したものになります。同業者に対しても敵対視することなく、感謝しながら着物需要を創出することでマーケットを拡大させ、リーディングカンパニーとして着物業界に貢献したいと考えています。 今後、強いチームをつくるために、現在募集中の専門職種の採用では、着物に携わった経験は一切問いません。専門性が高い方にご入社いただきたいと考えています。発言権も裁量権も大きいポジションです。一度きりの人生、面白いことをしたい!何かを成し遂げたい!そんな明るい方のご応募をお待ちしています。