まず貴社を設立した経緯から教えていただけますか。
会社を設立したのは…勢い、ノリです。本当のことなので“ノリで始めた”と書いておいてください。特に「こういうことをしたい」という思いはなかったですね。(資本金が1円でも設立できる)確認有限会社としてスタートして、しばらくは資金がありませんでした。その後株式会社にする時、解散事由の登記に必要な3万円すらギャンブルで勝ったお金を充てたほどですから。 もっとも、ノリであっても会社を始めた以上は自力で食べていかなければなりません。私にあるのは技術だけですから、必死に営業をしてお客様から仕事をもらって、要件定義から開発、運用保守、セキュリティの設定まで必死にやりましたよ。幸い、前職からお付き合いしていたお客様が後押ししてくれたのですが、その好意に甘えず営業とエンジニアの両輪で頑張りました。 社員も徐々に増え始め、今のようにサイバーセキュリティ事業に絞って展開するようになったのは、5年ほど前からですね。
サイバーセキュリティ事業に絞ったのは何故なのでしょうか。
サイバー攻撃を受けた会社にはとんでもない被害が出ます。会社が傾いてしまうことも珍しくありません。せっかくブレイクスルーした会社が、たかがサイバー攻撃ごときで死んでしまうのはあまりに可哀想じゃないですか。私自身、会社を軌道に乗せる苦労を知っているから、余計にそう思うんですね。 ただ、サイバーセキュリティはどれだけお金をかけても「これで100%問題ない」とはなりません。しかも、実際にはセキュリティ対策にかける予算を限られている会社がほとんどです。そこで必要なのは、完璧ではなくてもいいから予算内でできることを考え、ビジネスの継続に支障がない対策を提案することです。ですから私達はあえて特定のプロダクトを持たず、お客様ごとにセキュリティ技術を提供しています。 利益のことを考えれば、特定のプロダクトを提供する方が私達にとっては楽でしょう。それをしないのは、私達が“ドM”だからです。
サイバーセキュリティに関するセミナーで講演されていらっしゃるそうですね。
スケジュールが許す限り、受けるようにしています。でもセミナーって眠くなるので仕掛けが欠かせません。例えば、絶対に同じ資料を使わず、セミナーのテーマによってガラッと内容を変えるという具合です。私はこの作業を“曲づくり”と呼んでいます。私の新曲を聴いて笑ってくれた人を“モリシタン”、笑わないけれど面白がってくれた人を“隠れモリシタン”と呼んでいます。 それはさておき、同じ資料を使わない理由は眠らせたくないから、だけではありません。同じランサムウェアに感染しても、その会社の経営者、社員、PC環境、風土等によって対策は様変わりします。感染した現象は同じでもヒストリーは全く違うわけです。 その違いを前提にすれば、セミナーは自ずと変わります。その会社の人達にサイバーセキュリティについて関心を持ってもらい、対策の必要性を認識してもらうために最適なコンテンツを発信することが、私の使命だと考えています。
“ノリ”で会社を始めた守井様が、何故そこまでひた向きになれるのでしょうか。
「人に対しては“プラス1”の価値を提供したい」ということが自分の生き様、と捉えているからでしょうね。 セミナーにしても、参加した会社の人に関心や認識を持ってもらうだけが目的ではありません。私の話を聞いて「セキュリティエンジニアってかっこいいね、やってみたい」と感じてくれる人を一人でも増やしたい、新しい世代にサイバーセキュリティのことを伝えていきたい、という思いがあります。…ってなんか今、アーティストみたいなこと言ってますね。 もちろん社員に対しても、何かと話し掛けたり、カラオケや食事に誘ったりしてコミュニケーションを取っています。社員が「お客様と同じPC環境を作って“攻撃”を試したい」と言えば、全額会社負担で用意します。大手さんのように億単位の投資はできませんが、「やりたい」と言っている社員を邪魔したくはないし、権利もないですから。それが“プラス1”になっているか、私には分かりませんけれど。
最後に、これから貴社にジョインされる方に求めるものを教えてください。
求めるものは…ないです。私は求められると“プラス1”をやってしまうので、求められたくないというのが本音です。ですから人にも何かを求めたりはしません。うちで働きたいという人は働いたらいいんじゃないでしょうか。 実を言うと私自身は、一人で黙々と仕事をしていたいタイプなんです。仕事でなければ家から一歩も出ず、寝転がって天井のシミを数えられます。凝り性というか、オタク気質があるからでしょう。人に求めはしませんが、オタク気質で一つの道を極めようとする人が合っている、ということはお伝えしておきます。 同じ気質の者同士が集まったこの会社は、「コイツとなら上手くいく」と思える関係性が核です。今はサイバーセキュリティを展開してはいますが、今後どうなるかは分かりません。元々「こういうことをしたい」と決めて始めた会社ではありませんから。何をやるかではなく、誰とやるかを吟味した結果、新しい方向に行くのもアリですよね。