有限会社久松

「晴れの日のおいしさ」をテーマに、楽天市場をはじめとする大手ECモールに「博多久松」を展開する有限会社久松。
楽天市場ではカテゴリー別の「グルメ大賞」を14回受賞しているほか、全カテゴリー約５万店から選ばれる「ショップオブザイヤー」に4年連続で輝いている実力企業だ。楽天市場に加えてYahoo!ショッピング、Dショッピング、au PAY、amazonなど主要なECモールで展開する「博多久松」は現在、ECのおせち市場において自他ともに認めるトップブランドに成長し、自社ECサイトの取扱量も年率40％で伸びている。おせち以外の商材を合わせると、製造販売実績は年間100万食を超える勢いだ。

この圧倒的な競争力の源泉は、何よりもまず料理のおいしさにある。同社は昭和57年（1982年）、温泉旅館の板場などで修業を積んだ創業者が、結婚式やホテルの料理を手がける高級仕出し料理の店としてスタート。下ごしらえを施した半製品の製造など、料理のプロの目で磨いた冷凍技術が後のEC展開に生きた。

2004年、販路拡大を意図し、楽天市場に冷凍おせちを扱う博多久松を出店した当初からユーザーの注目を集め、2年後には早くもグルメ大賞を受賞している。料理の品質、安全性、おいしさを損なわない独自の冷凍技術。九州・福岡の地で、結婚式やお正月といった「晴れの日」を彩る料理づくりに注いできた長年の努力が、ECを通じて全国の消費者に支持されたのだ。

代表の松田健吾氏は「地方の中小企業に過ぎない当社が、ECを活用することで、商品の企画・製造から販売、顧客管理まで一貫して主導権を持てる体制を確立できました。ここが当社の大きな強みになっています」と話す。松田氏は社内でEC参入を主導するなど、創業者の下で多年にわたって販売戦略を担い、2019年に代表取締役に就任している。

「ECのおせち領域でトップのポジションを続けられるのは、新しいトライアルを絶えず重ねているからです。500円のお試しセットから単身用おせち、大家族向けの数万円レベルのセットまで、商品ラインナップは年々充実。また、おせち商戦は年1回ですが、商品開発は1年がかりです。常に新しい食材をリサーチし、ユーザーの要望をもとに毎年メニューの3分の1を入れ替えています。昨年は肉尽くしおせちや幅60cmを超える大型サイズの一重おせちが人気を集めました。食の安全にもこだわり、中国産食材を使わないチャイナフリーをいち早く導入。現在ではソルビン酸（合成保存料）や合成着色料も使っていません」（松田氏）

食への不変のこだわりと、市場の動きにしなやかに対応する事業姿勢で、ECモールに確固たるポジションを確保した同社。松田氏が代表に就いた2019年以降、商品開発、自社システム開発、新規事業開発等、さまざまな角度から積極的な改革に着手し、新たな成長フェーズに入っている。

まず、おせち以外の季節商品の強化。「母の日オードブル」「父の日おつまみオードブル」「敬老の日オードブル」といった既存のセット商品のアイテム数を増やすほか、将来的にお歳暮やお中元などフォーマルギフトの領域を見据えた商品開発にも注力していく方針だ。

2020年春には、10年がかりで開発した新しい受注管理システムが稼働。これによって作業効率が大幅に向上し、利益構造の強化とともに人員リソースのさらなるECシフトが進む見通しだ。将来的には外部向けのパッケージ販売も視野に入れている。

また従来のビジネススキームに加え、ECに新規参入する企業や伸び悩んでいる企業をサポートするECコンサルティング事業の構想も進めている。その試金石となるのが、福岡県が2020年5月から楽天市場でアンテナショップ的に展開しているECサイト「福岡県よかもんショップ」の管理運営業務だ。

「生鮮品や酒類、工芸品といった多種多様な県産品を扱うサイトで、当社がWebデザインから受発注管理、アクセス解析に至る全プロセスの運営を委託されています。今回のオファーは当社の実績を高く評価していただけた証と受け止めていますが、おかげさまでオープン直後から業績は順調。ひとまずは手応え十分といったところです。こうした実績を積み重ねて、食品関連はもちろんのこと、ECを始めるなら久松に相談しよう、そんな評価をできるだけ早い段階で確立したいと考えています。こうした場面では、当社がこれまでに蓄積したデザインやシステム開発の知見が大いに力を発揮するはずです」（松田氏）

今後の新展開のカギを握っているのが、WebデザイナーやシステムエンジニアといったIT人材だ。
「商品の充実と新規事業への仕掛けがひと段落したところで、次はWebデザインとシステム開発を強化したいと考えています。これまでは、どちらも外部デザイナーやエンジニアに頼る部分が大きかったのですが、内製化できる体制の整備を進めています。料理とECは当社を動かす車の両輪。端的に言えば、料理と同様に“売れるデザイン”やシステムも自前でつくれる体制を構築したいということです」（松田氏）

現在、同社の組織は商品製造を受け持つ製造部と、ECの運営全般を担う運営部に分かれている。運営部にはセールスプロモーション課、デザイン課、システム課、カスタマー課の４つのチームがあるが、各チームの役割分担はいい意味であいまい。所属部署の枠を超え、案件単位で一体となって進めるスタイルだ。

「内製体制を強化するといっても、一日中端末の前に座ってコードを書くようなエンジニアを求めているわけではありません。フロントエンドにもバックエンドにも目が届き、安定したシステム構築に向けて的確な判断が下せる視野の広さに期待しています。システム開発部門全体を見直し、刷新するくらいの気概がほしいですね」と話すは、デザイン課のリーダーを務める小佐々康生氏。実は2020年5月にジョインしたばかりの“新人”だ。

「それまではフリーランス歴18年のWebデザイナーとして、久松のサイトのデザインを依頼される立場でした。代表から“サイトの見直しから運用まで、一貫して任せたい”とオファーを受け、またとない成長の機会と思い、お受けしました」と小佐々氏。ジョイン後は、「同じWebデザイナーという立場でも、内部と外部ではこうも違うのか」と、新鮮な衝撃を受けているという。

「外部デザイナーの仕事は納品で一区切りですが、社内ではデザイン完成後が重要です。反響を分析して運用の手法を見直し、改善につなげていく。全体を俯瞰するプロデュースの視点が鍛えられます。セールスプロモーション課と連携して、楽天市場内の別店舗『フード＆ホール』で、楽天のスーパーセールに合わせたスポット企画を打つなど、プロデュース視点を駆使する毎日です。外部にせよ内部にせよ、『デザインを育てる』ということに興味を持っているWebデザイナーの方なら、当社には新鮮な驚きと大きなチャンスが待っていますよ、と伝えたいですね。コピーライティングのセンスをお持ちの方など、特に歓迎です」（小佐々氏）

創業38年、EC参入から16年の歴史を持つ同社だが、ECを担う運営部の主力は20代。多様な新展開に挑む社内は、スタートアップにも似た新鮮な熱気に満ちている。

「今の当社は、将来の大きな成長に向けて、既存の組織や業務を大胆にリセットして再構築していくフェーズにあります。教育制度や評価システムも含め、組織マネジメントもゼロから作りなおしているところです」（松田氏）
自分のスキルを常にアップデートしたい人、日々の仕事に明確な目的意識を持って臨みたいと考える人へ、同社の門戸は大きく開かれている。