株式会社設備保全総合研究所

株式会社設備保全総合研究所は、生産設備のアセットマネジメントを効率化するSaaSを開発するスタートアップ。プラント・工場における保全業務のDX推進をバックアップするクラウドサービスを提供している。

プラント・工場は多様な設備で構成されている。塔（反応釜）・槽・熱交換器といった静止機器、ポンプ・圧縮機等の回転機、配管、タンク、制御弁・遮断弁・安全弁、計装機器、遮断器・変圧器といった電気機器等、非常に多くの種類がある。

同社が開発するプラント・工場専用設備保全統合管理クラウドサービス『EMLink』は、そんな工場・プラント設備の機器情報、保全履歴をデジタル化し「完全な一元管理」を可能とする。設備台帳集約、報告書作成、計画立案など、プラント・工場の最適運営に関わる業務を網羅的にカバーしている。

「当社が開発している『EMLink』を活用すれば、設備保全の業務を効率化でき、保全コスト削減、バランスシート最適化に繋げられます。設備保全の業務の現場では、保有設備の一元可視化が進んでおらず、設備ごとに異なる台帳に情報がまとめられています。とにかく設備の数が多いため膨大な数の台帳を管理し、必要な情報にたどり着くまで一苦労します。保有設備に関するデータをデジタル化し一元管理することで、効率的な点検、修理、設備の入れ替えが可能となります」(代表取締役 CEO・相原章吾)。

設備ごとの仕様、保全履歴、計画を一元管理できる『EMLink』。図面や手順書など資料も格納し、設備に関する過去・現在・未来の情報を集約する。補修、更新、検査、不具合対応などの記録を、設備に紐づけて作成でき、作業指示書や法定点検など、将来やるべきことを立案できる。

「『EMLink』は、機器台帳、保全報告書、勧告、ワークフローなど、様々な機能を揃えており、各機能を連関させてデータ生成が可能です。デジタル化によって、保全計画の立案やスケジュールの管理、承認作業のオンライン化を通して、情報共有や意思決定を強力にバックアップします」(相原氏)。

プラント・工場の設備保全DXツール。設備保全総合研究所が手掛けるSaaSは、非常にニッチだといえる。しかし、多くのプラント・工場では、可燃性物質や高圧ガス・蒸気、あるいは毒物・劇物を製造したり貯蔵したりする。これらの物質の扱い方を誤ると、放出や漏洩を引き起こし、爆発や火災、人体や環境への悪影響といった甚大な事故へと繋がる可能性もある。多くの設備で構成された、一品一様のプラントを安全かつ安定的に稼働させるためには、設備の点検が非常に重要になる。

「プラントや工場の設備保全は、製造業を営む企業にとって、非常に大切な業務。事故や故障が発生すると、操業が停止したり、生産能力が落ちたりすることで、売上に大きな打撃を与えるだけでなく、大きな事故を引き起こしてしまうと企業としての存続が危ぶまれる事態も想定できます。そこで、プラントや工場の設備を定期的に点検、修理、設備の入れ替えなどをする必要があります」(相原氏)。

プラント設備を生産アセットとして所有する石油・石油化学・化学産業は、日本の高度経済成長期と共に急速に発展した。そのサプライチェーンは1970～80年台に確立されており、現在でも多くの企業が比較的古い生産設備を運営しながら収益を生み出している。

「プラント設備は、初期投資が非常に大きな金額となることから、機械設備を修繕・リプレイスしながら全体として数10年単位で使い続けるケースが大半です。近年、高度成長期以降に建設されたプラント設備の老朽化が深刻化の一途を辿り、設備保全の重要性や必要性が増しています。また、保全技術者の不足も危機的な状況にあり、業務効率化はもちろん技術承継のツールとしても生産設備のアセットマネジメントツールの活用が期待されています」（相原氏）。

プラント・工場の設備保全は、製造業の企業にとって、リスク管理の一環として非常に重要ではあるが、視点を変えるとそれは「コスト」ともいえる。設備保全に掛かる費用は少なければ少ない度、企業の収益はアップする。

「大手企業では、独自に生産設備のアセットマネジメントのDXを進めていますが、中小企業ではDXが遅れているのが実情です。日本の化学・素材産業は、そのほとんどが従業員200名以下の中堅・小規模な会社。『EMLink』は初期投資0円で、年間利用料約120万円で提供し、投資余力が限られる中堅・小規模な企業でも活用できるように努力しています」（相原氏）。

プラント・工場の安全・安心な運営は「人の手による設備保全」に支えられているという。プラント・工場は、オーダーメイドで設計・建設されるもので、全ての設備構成が等しい2つ以上のプラントは存在しない。設備保全総合研究所の創業者である相原CEOと上野COOは、共にプラント設計・保全の業界でキャリアを積んだ人物なのだ。

「保全業務のDXツールで先行する企業との差別化で意識しているのは、中堅・小規模な企業でも導入できる体制を構築すること。デジタル化に踏み切れない理由の一つでもある初期データ入力を当社で担当するプランも用意したり、導入コンサルから提供したりと、小さなプラント・工場でも保全業務のDXが推進できるような体制を整えています」（相原氏）。

近年、「インダストリー4.0」や「スマートファクトリー」といったキーワードに象徴される製造業DXが大きく進んでいる。設備保全のDXも例外ではなく、大手ITベンダーやメーカーの系列会社が設備保全のDXツールを開発している。

「製造業DXは、IT業界でもホットな領域。設備保全のDXでもAIやロボティクスなどのテクノロジーが積極的に活用されています。大手企業を中心に進んできた製造業DXは、いよいよ中小規模の企業にも広がろうとしています。当社にとっては、大きなビジネスチャンスであり、プレシリーズAラウンドの資金調達を進め、すでに重電機器や都市土木、半導体、自動車、産業機械の改修･メンテナンスを展開する株式会社マイスターエンジニアリングから1.6億円の資金調達を受けました」(相原氏)。

時代の風の後押しを受け、設備保全DXのSaaSを開発している同社だが、先述したように創業者の二人は、ITエンジニアではない。ツールの開発は、フリーランスのエンジニアに任せてきた。

「私たちの知り合いのITエンジニアに業務委託でPMをお願いし、フリーランスエンジニア6名で『EMLink』の開発を進めてきました。会社が3期目に入り、シリーズAの資金調達、ARR2億円を今期の目標に据え、本格的な事業スケールが視野に入った今、社内にエンジニアチームを組織する計画を進めています。ITが専門ではない私たちを、豊富な知識と経験でサポートしてくれる、CTOともいえる存在、今後の開発を統括する“一人目エンジニア”の採用がカギとなります」(相原氏)。