新しい視聴体験やメディア環境に合わせてビジョンを再考し、再定義する
『マーケティングのROIを最大化する』。REVISIO株式会社(以下、REVISIO)は、テレビの前に人がいるかどうかという従来の視聴率の観点だけでなく、視聴者の視線や顔の向きから視聴態勢を計測・分析する独自の人体認識技術「視聴質」を活用する会社だ。このデータを広告主、広告会社、放送局と共有することで、広告の配信時間やメディアの選択、そしてCMのデザインや内容を最適化し、視聴者の反応や関心に基づいて効果的な広告戦略を展開することが可能になる。REVISIOの代表取締役社長を務めるInspired.Labメンバーの郡谷康士さんにインタビューを行った。 REVISIO(リビジオ)という社名は、リディファイン・ビジョン、つまり「ビジョンを再定義する」というところから由来しています。動画配信サービスの普及により「テレビ」の概念の範囲が変わってきている中、伝統的な「テレビ」の視聴だけではなく、そこに新しい視聴体験を生み出すYouTubeやTVer、ABEMA、Netflixなどからの視聴データも取得することによって「視る(=ビジョン)を再定義する」ことを表しています。2022年10月に、社名をTVISION INSIGHTSからREVISIOと改名し、新しい視聴体験やメディア環境に合わせてビジョンを再考し、再定義することを目指しています。
代表取締役としての役割である経営やマネジメントのスキルは、転職先であるリクルートでの経験が大きな学びになっているという。
新卒で入社したマッキンゼーでは、3ヶ月単位で業界や経営課題が違うプロジェクトを扱っていました。コンサルティングも、今は専門分野に特化することを求められる時代ですが、私は幅広くいろんな仕事を経験するという最後の世代でした。仕事自体は刺激的でしたが、実行よりもクライアントに提言することが主で、より実業の場に身を置きたいという思いが強くなりました。そこで、スタートアップに転職したいと思っていたのですが、当時はスタートアップの企業数自体も、転職する人もまだ少なかったことと、出身地である中国で仕事したいという思いが重なり、リクルートに転職をすることにしました。当時のリクルートは、4つの拠点を中国本土に持っていて、そこでは売り上げの積み上げ方や事業計画の立て方、メンバーを動かす方法について学ぶことができました。またフラットなチームで、経営陣との距離も近かったこともあり、海外戦略についての議論に参画できたことが大きな経験となりました。
その後起業しECアパレルブランドを立ち上げたが、起業はあくまで手段であり、目的は「見つけた課題を解決すること」だと話す郡谷さん。会社を設立したきっかけはなんだったのだろう。
元々起業する予定はなく、MBA留学をする予定だったのですが、マッキンゼー時代の同僚に誘われ、「小さい組織でしがらみなくやっていきたい」という思いもあり会社を一緒に立ち上げました。日本のデザイナーを起用し中国の生産の仕組みと掛け合わせたブランドだったのですが、ロジスティックスや製造、品質管理など多岐にわたる業務に対応することができず、結局上手くいきませんでした。マッキンゼー時代の仲間たちと起業したため、似通っている者同士が集まっていたことで、総合的な能力が不足していたのです。例えるなら、それぞれボクサーとしては強いけれど、総合格闘技は弱い状態。この時に、ダイバーシティの重要性に気付いたことで、REVISIOでは異なるスキルや背景を持った人材を集めることを大切にしています。 ECアパレル事業での経験を元に、自分たちのー番の強みは新しい媒体を使ったマーケティング事業だと気づく。会社はビジネスモデルを変更し、インフルエンサーマーケティングの事業にピボットした。 中国では、日本より6〜7年ほど早くインフルエンサーマーケティングが始まっていたことと、大手企業が早くから顧客についてくれたことが重なり、事業は軌道に乗り始めていきました。デジタルマーケティングだったので、最初はテレビの予算を奪いに行く側だったのですが、顧客と話していくうちに、デジタルマーケティングとテレビマーケティングの間には良い補完関係があると教わりました。デジタルは興味関心に基づいたレコメンドが強い分、興味のない領域にはなかなか触れにくく、特定の範囲外に広告を届けることが難しいという課題があります。一方で、テレビマーケティングにはそこに強みがありました。ただ、実態として、テレビ自体の効果に期待している顧客でも、テレビの運用に対して大きな不満を持っていることがわかりました。そこで、テレビにおける顧客課題を改善するために、自分が強みを持っていたデジタルマーケティングの技術とテクノロジーのバックグラウンドを活かすことで、新たなアイデアを生み出すことができるのではないかと試行錯誤して生まれた技術が、今のREVISIOのサービスのアイディアの元となっています。
その後、2015年にTVISION INSIGHTS(現REVISIO)を創業。TVISION INSIGHTSは、世論のリアルな反応をいち早くキャッチする視聴質データを通して、凝り固まった放送業界に新しい風を吹き込んでいく。
視聴者のローデータを扱うということは、世の中のリアルな反応や動きを誰よりも早く知っているということ。放送業界が世の中の風潮にフィットしていない部分を、我々の視聴質データを用いてより良い方向に示していけるというところが醍醐味です。弊社は今年2月にシリーズBにて、総額8.8億円の資金調達を実施し、スタッフは現在約50名。これからさらに社員が増えていくフェーズを迎えます。ダイバシティーを推奨している分(全員が異なる強みを持った方が強い組織ができます)、いろいろな考えがある中で足並みを揃えていくことは大変ですが、私を含めた5〜6人のランチ会を設けるなどして、社員それぞれとビジョンやミッションの共有をする時間を大切にしています。またスタートアップにおいては、日々ジェットコースターのように、たくさんのことが起きるので、それらの情報といかに向き合うかが重要だと思っています。一喜一憂はせず、情報に鈍くなることなく、自分たちがやるべきことを日々やれているのか、常にクールヘッド・ホットハートの姿勢でいたいです。
20年ほど前から始まったインターネットの普及に比べ、広告はまだまだ進化の途中だと話す郡谷さん。RIVISIOが視聴質データを通して望む広告の未来の姿とは。
現代日本人の平均メディア接触時間は、テレビが約2.5時間、モバイルが約3〜4時間、合計すると人生のおよそ25%を占めています。その時間を活用した広告で、さまざまなコンテンツやサービスが無料や廉価で提供され、時代を支えているビジネスです。一方で、繰り返し同じ広告が流れて来たり、旅行予約をした後にアルゴリズムで予約サイトの広告が流れて来たりするということは、皆さんも日々経験されているかと思いますが、本来あるべきデータはまだまだ足りていませんし、仕組みにも改善の余地があります。例えば、この間は「世の中の無駄な広告量を8割減らせないか?」という意欲的な世界の話について議論しました。価値ある広告やコンテンツにしっかり投資した方が、よりよい世界になるのではないかと思っています。テレビCMに限らず広告全般の最適化に貢献し、より建設的に人々の時間が使われる、そんな世界になるよう尽力していきたいと思っています。