Happy Elements株式会社

Happy Elements株式会社は、京都に開発拠点を置くゲーム会社だ。2010年4月、中国のHappy Elements社の日本法人として設立され、中国で開発したPC向けのソーシャルブラウザゲームのローカライズとともに、オリジナル携帯ゲームの開発・運営を行ってきたが、2013年以降はスマートフォンゲームアプリの開発・運営に移行。設立以来、一貫して右肩上がりの成長を遂げ、現在ではアルバイトを含めて約200名のクリエーター集団へと育っている。

同社の特徴は、オリジナル・ゲームの開発・運営にこだわり、『メルクストーリア』『あんさんぶるスターズ！！』『ラストピリオド』『エリオスライジングヒーローズ』といったヒット作をコンスタントに生み出していることにある。

スマートフォンゲームアプリの開発に移行した直後の2014年1月末にリリースした『メルクストーリア』は、2017年7月までに500万ダウンロードを突破し、同社の認知度を一気に押し上げた。

続いてリリースした『あんさんぶるスターズ！！』は、その人気をさらに上回り、現在における同社を代表するタイトルとして位置づけられている。女性向けアイドル育成ゲームという従来にはない切り口で、2015年4月下旬の配信開始以来、ゲームにあまり馴染みのないユーザー層までをも取り込み、2016年6月下旬には200万ダウンロードを突破した。その人気はゲームの中だけにとどまらず、舞台やDVD、CD、書籍、グッズ類の販売などへと広がりを見せている。また、国内のみならず中国、台湾でも各国版がリリースされている。

同社が生み出すタイトルの人気の理由は、ゲームの世界観の作りこみやストーリー展開、さらにキャラクターデザインなどコンテンツのクオリティの高さにある。基本的には企画からシナリオライティング、キャラクター、UI、アニメーションなどのデザインワーク、プログラミングに至るまで内製で行うことでクオリティの高さを保っている。中でも最大の強みと自負するのがキャラクターデザインだ。「Live2D」を駆使するなどしてキャラクターをより魅力的に見せるチャレンジも重ねてきた。

今後の戦略について代表取締役 CEO・新井元基氏は語る。
「弊社はこれまでこつこつとオリジナルタイトルをリリースし運営し続けてきました。今後も方針を変えず、継続的にオリジナルのヒットタイトルをリリースしていきたいと考えています」（新井氏）

Happy Elements社は外資系企業の子会社ではあるが、ゲーム作りにおいて、親会社の影響力を受けることは全くない。親会社の意向に左右されず、独自の理念のもとでゲーム作りに専念している。その独自の理念をユーザーにより明確に伝えるため、2016年11月にはオフィス移転に合わせて「カカリアスタジオ」を発足し、独自ブランドでの展開をスタートさせている。

新井氏は、京都大学工学部に在学中からベンチャー企業に籍を置き、プログラマーとして携帯アプリなどの開発経験を積んだあと、大学院時代にドリコム社へ転職。マザーズ上場の際にはCTO（最高技術責任者）として開発部門を統括していた。その後、自分が思い描く組織づくりを実現するため、2009年にエンジニア数名と共に独立を果たした。

「いくつかベンチャー企業を経験してきましたが、どの組織においてもビジネスサイドの声が強く、クリエイターはそれを実現するための存在と位置付けられていました。クリエイターが思うような物作りができるような、クリエイターが中心の組織を作りたいと考え、独立しました」（新井氏）

独立後、1年ほど経過した頃、知人を介して出会ったのが、ちょうど日本法人立ち上げの準備をしていたHappy Elements社だった。当初は、外部からサポートする立場で業務を請け負っていたが、協業したタイトルがビジネスとして成功したことで、Happy Elements社からの要請を受け会社ごとジョインすることとなった。その際の交渉で、物作りにおける独立性を確保したのである。以来、新井氏を含む創業メンバーのエンジニアが軸となり同社の基盤を築いてきた。その背景にある思いは、新井氏が起業した当時からぶれたことはない。

「弊社はクリエイターが良いと思うものを精一杯つくれる会社を作りたいという思いで事業を行ってきました。利益を上げることが第一の目的ではなく、他社の動向も気にせず、クリエイターが集まりマイペースで自分たちが良いと思うオリジナルタイトルをつくっています。その思いがぶれたことはありません」（新井氏）

『あんさんぶるスターズ！』は、携帯ゲーム『あんさんぶるガールズ！！』から派生したタイトルだが、同タイトルが誕生した背景にも、そんな同社らしい経緯があった。同社の従業員は、約半数がイラストレーターを含むデザイナー職である。そしてその約90％を女性が占める。これまで男性向けタイトルばかり作ってきた中、女性デザイナーの中から自分たちが描きたいものとして上がってきた企画が『あんさんぶるスターズ！』だった。

「これまでもいわゆる乙女ゲームはありましたが、もう少し広い範囲の女性向けのスマホゲームのヒットタイトルは存在しませんでした。存在しないのは需要がないからなのではないかとも考えたのですが、実際に出してみたら弊社の中でもダントツのヒット作となりました。このようにクリエイターがつくりたいものをつくっています。ヒット作が出ると、どんどん会社を拡大していこうという話にもなりがちですが、弊社は特に規模の拡大ありきでは考えず、良いものを生み出し続けられる環境を続けていくにはどうしたら良いかを考えてやっていきます」（新井氏）

創業以来、着実に規模を拡大してきたHappy Elements社。特にスマートフォンゲームアプリの開発にシフトしてからの4年間は急拡大を続けている。運営するタイトル数が増え、各タイトルの規模も拡大する中、引き続いてプランナー、デザイナー、エンジニアといった各職種の採用に注力していく考えである。

同社に在籍する社員の多くは中途採用で入社した人材である。地元京都をはじめとする関西エリアの企業からの転職者だけではなく、関東をはじめ全国各地からU・Iターンで京都に越してきた人材も少なくはない。前職の業界も、ゲーム業界に限らず、WEB開発はじめIT業界全般に及ぶ。共通するのは「クリエイターが作りたいものをつくる」「クリエイターがものづくりに集中できる環境作り」という新井氏の考えに対する共感である。採用の際は、一次面接から新井氏が入って直接話をするため、ビジョンが伝わりやすい。

「好きなことができるといっても、認められないものを自己満足で作っても仕方がありません。きちんと利益が出なければ好きなことを長く続けられないし、お金が稼げるということはユーザから認められているということでもあります。沢山の方に楽しんで欲しい。弊社のクリエイターは、各自そのような意識を強く持っています」（新井氏）

新井氏がゲーム作りに介入することはほとんどない。あくまでも現場のクリエイターが力を発揮しやすい環境づくりに徹する。執務空間に関しては、タイトルごとにチームを分け、チームごとに執務空間を区切ることで、雑音に惑わされず集中して仕事ができる環境を維持している。2016年11月のオフィス移転では、個室スペースやフリールームなども充実させている。インセンティブ制度やスキルアップサポート、イベント補助、スポーツジム補助、社員旅行などの社内制度も創業時から充実させてきた。

「組織立ってトップダウンで動くというより、ボトムアップで一人一人がやるべきことをやる。その集合体でヒットを生み出していくというやり方がベストだと考えています。弊社ではクリエイターではないマネージャーが存在しません。各チームのリーダーは、プレイイングマネージャーとして、いちクリエイターであるとともに、チームの意見を集約する役割を担っています」（新井氏）

一般的には、年齢を重ねていくと管理職という立場を担うことが求められるが、それによってやりたいことができなくなってしまうというエンジニアやクリエイターは少なくない。全員が現場という同社には、そのような思いをせずに済む環境がある。また、東京とは異なり競合や情報量が少ないため、マイペースを保つには最適な環境でもある。さらに必要があればいつでも親会社の財務的支援を受けられる状況でもある。そういったことを含めてもHappy Elements社は、「思う存分ゲームづくりがしたい」というクリエイターの思いに十分に応えられる会社である。