ご略歴について、お教えください。
慶應義塾大学総合政策学部でマーケティングと経営戦略を専攻し、潜在ニーズを掘り起こして新しい市場や商品を開発するマーケティングの面白さに惹かれました。そんな仕事に就こうと、P&Gというアメリカの消費財メーカーに入社しました。 まず担当したブランドは洗濯用洗剤でした。コモディティ商品である洗濯用洗剤は機能的な差別化が難しく、価格競争に陥りがちでした。当時は“洗浄力+除菌力”を打ち出していたのですが、“除菌力”の効用がうまく伝えられていなかったのです。1999年の当時、夜間に洗濯する共働き家庭が増え、部屋干しのニーズが高まっていました。洗濯物を部屋干しすると生乾きになり、嫌な臭いが生じます。臭いの原因はばい菌です。そこで、「除菌力で、部屋干ししても臭わない」とアピールしたところ、シェアが一気に10%アップしたのです。商品特性は不変なのに、伝え方を変えるだけで消費者の生活を良くすることに貢献できる。マーケティングという手法の可能性の大きさをまさに実感したわけです。 その後、担当が化粧品に変わり、トータルで7年間、外資系企業の厳しい風土で必死にマーケティングの仕事を続けました。そのうち、「この必死さは、社会の課題を解決することに注ぎたい」と思うようになりました。起業志向も芽生えて、テーマを探すべくハーバードビジネススクールへ留学しました。
御社を創業したきっかけを教えて下さい。
そこに集う学生達の間には「俺達が世の中を変える!」という熱があり、私も大いに触発されたのです。そんな環境で出会ったのが、共同創業者となった石川善樹です。石川は東京大学医学部を卒業後、ハーバードで公衆衛生を学んでいました。 彼から「日本人の多くはがんで亡くなっている」と教わりました。私も祖父をがんで亡くしています。彼の話に耳を傾けると、「けれども、早期発見で助けられる。ステージⅠなら99%は治せる」と言うわけです。びっくりしました。しかしながら、早期発見できずステージⅢ、Ⅳと悪化すると同じがんでも5年生存率は5~10%になってしまうというのです。ならばがん健診を受ければいいだけでは、と思ったものの、受診率は20%程度とのこと。2人に1人ががんに罹っているのに、5人に1人しか受診していないのはおかしいだろうと思ったのです。その要因は、医学の問題ではなく、がん検診の重要性を伝えられていないマーケティングの問題だとわかりました。 そこで、石川に「医療の問題をマーケティングで解決する会社をやらないか?」と誘い、賛同してもらい2008年に設立したのが当社です。
御社を創業してどういったことを目指し、実現させてきたのでしょうか?
日本の医療に関する社会保障制度は、崩壊しかかっています。医療費は約42兆円で、国家予算(一般会計)の40%以上にあたる金額です。但し、30~40歳代の医療費は1人当たり年間10~20万円程度ですが、退職して国民健康保険に移行する65歳では50万円以上となり、75歳以上だと90~100万円という状況です。2025年には団塊世代がその75歳に突入する。医療費は毎年3%ずつ増えていますが、もっと増えることは火を見るよりも明らかで、このままでは国は潰れてしまいます。だからといって、医療を提供しないわけにはいきません。ならば何を行うべきか。医療を不要とする“予防”を推進するしかないのです。誰も病気になりたくてなっているわけではありません。 ならば、病気にならないために、その入り口として健康診断を受診することが問題を解決する最有力手段のはず。 そこで当社は、人々の行動変容を促し健診受診率の向上を目指すマーケティング手法の研究開発に取り組みました。その結果、受診率を3倍に増やす手法を開発し、国民健康保険の被保険者に予防医療を提供する自治体への提案を始めたのです。3年目までに10の自治体と契約でき、その後毎年5自治体ずつ増えるといったペースでしたが、8年目あたりから一気に増えて現在は約250の自治体に採用されています。2020年には450自治体を見込んでいます。全国に約1,700自治体あるので4分の1程度ですが、人口カバー率では約4割。日本における予防医療マーケティングのインフラを担う存在といえるまで来たと自負しています。
福吉さんにとって“仕事”とは?
私にとっては、社会の課題を解決することです。社会が少しでも良くなることに自分の人生を投じる接点が仕事、といった位置づけですね。 もちろん、経営者としてビジネスを大きくすることにも関心はありますが、収益拡大というよりも、社会インフラを大きくするといった側面での関心が強いです。大学教授の両親に育てられたことが、そういった思考を生んでいるのかもしれません。
社員に対して、どうあってほしいかという思いをお聞かせください。
成長し続けてほしいです。 幸い、当社には成長意欲の高いメンバーが揃っていますが、メンバーが成長し続けていると常に自覚できる環境をつくることが、私の最大の役割であると自覚しています。もちろん、仕事には苦しい局面もありますが、そんな時でも顔を上げれば社会的意義のある仕事と再認識し、モチベーションを高められると思います。