株式会社ジーエークロッシング

株式会社ジーエークロッシングは神戸市に本社を置き、東京、福岡、台湾等、国内外7拠点で企業の販売促進をサポートするクリエイティブ集団である。2006年4月、従業員約40名からスタートし、2023年7月時点で147名の中堅企業へと成長を遂げている。

同社の成長を牽引してきたのは、設立2年目からEC市場に特化してスタートさせた画像関連事業だ。現在（2023年8月）は神戸、大阪、東京の3都市で四つのスタジオを構え、各スタジオにはカメラマンやスタイリスト、映像クリエイター等を常駐させる。そしてスチール撮影や動画撮影はもちろん、商品画像やプロモーション動画、3Dコンテンツ、アニメーション等、ECサイトやWebサイトに掲載するビジュアルコンテンツの編集・制作まで一気通貫で請け負う。その実績は国内トップクラス。同社の中では全社利益の57%を占める中核事業である。

もう一つの柱は、創業事業の印刷事業から発展した販促物のクリエイティブを担うにプロモーション事業だ。通販カタログやチラシ等、定期的に発行する印刷物のデザイン制作を中心とする、同社の安定した経営基盤を支える重要な事業である。

いずれの事業もクライアントは、アパレル企業、食品メーカー、流通業、通販会社等のBtoC企業だ。しかも各業界で国内トップクラスの事業規模を誇る大手企業ばかり。そしてその全てが直取引のクライアントである。

同社の強みは、販促物のクリエイティブにまつわる細かい作業を、品質を保ちながら安定的に回していく仕組み作りだ。2019年以降は、画像管理システム『GARACK』、撮影商品の管理や商品情報の一元管理システム『SOX』等を開発し、膨大な管理工数が発生する業務の効率化を実現している。

同社は、このような仕組み作りのノウハウを武器に、顧客の事業に入り込みながら各顧客との関係性を深め、同時に利益率を高めることで安定した事業基盤を築いてきた。国内最大手の信用調査会社の評点も高く、広告制作業界では全国第4位にランク。前後に連なるのは、業歴の長い業界大手ばかり。その中で業歴20年弱、従業員数150名に満たない中堅企業が上位にランクインしていることは快挙だ

このような安定した事業基盤を背景に、同社は現在、未来を見据えた新規事業に注力している。一つは、自社向けに開発した『GARACK』や『SOX』等、SaaS型サービスの外販事業。もう一つは、従来のにプロモーション事業を進化させ、クリエイティブの上流から一気通貫で企業を支援するクリエイティブ・ソリューション事業だ。

同社は、福岡に本社を置く株式会社ゼネラルアサヒの阪神事業本部が、事事業分割により独立して誕生した会社 だ。設立時は前身時代の事業をそのまま踏襲したが、限られた資本でのスタートだったため、ニッチな市場でトップの座を獲得することを狙った。その中で生まれたのが中核事業の画像関連事業だ。代表取締役社長・小川洋一氏が語る。


「ECサイト用の画像作成ビジネスは、商業統計にも表れないぐらいの小さな規模。大手は参入してきませんが、年間で何十万点にも及ぶ撮影ボリュームがあり、それは年々拡大し続けています。このビジネスを継続的に安定させるためには、そこで発生する煩雑な管理をいかに効率化するかにあります。『GARACK』や『SOX』といった当社の独自システムは、そのために開発したものです」（小川氏）。

例えば撮影した写真のデータは、『GARACK』内で、得意先別、商品別に管理し取引先と共有。また、現場で最も人手を要する撮影商品サンプルの管理は『SOX』で行う。特にアパレル会社から届く衣類サンプルは、正規の製品ではなくて撮影用なので、JANコードが未発行の状態である。撮影終了後はプレスにも使い回されるため管理が難しい。そこで同社のスタジオに届いた段階で仮のバーコードを発行し、返却されるまでシステム内で追跡できる機能を装備している。

広告制作の現場では未だにアナログな管理手法が用いられており、同社もシステム化するまではExcelを用いた管理をしていた。そこで試行錯誤を重ねながら蓄積したノウハウが、『GARACK』や『SOX』等のシステムに結実したのである。これらのシステムは、大量の画像データを扱うEC事業者等に向けての販売も行っている。そのために、2023年4月には福岡に開発拠点を開設し、エンジニアチームを設立。内製化に向けた取り組みを進めている。

その狙いを、小川氏は次のように語る。

「当社は画像関連事業を軸に事業を拡大してきました。しかしEC化が進む中、有力企業は撮影そのものの内製化を進めています。撮影機材やアプリの進化で誰もが写真が撮れる時代となり、5年後、10年後も当社の強みが維持できるとは言い切れなくなっています。そのような状況を見越して、新しいビジネスを立ち上げました。今後は、『GARACK』や『SOX』をサービスとして確立させるとともに、社内のDXも推進し、さらに新たなWebサービスの開発へと繋げていく計画です」（小川氏）。

クリエイティブ・ソリューション事業を立ち上げた狙いも同じだ。2020年4月、“心躍るショッピング体験をクリエイティブする”をコンセプトに、社内のクリエイティブ資産を結集した専門チームを新設。主に地域の地場産業でトップシェアを持つような中堅企業をメインターゲットとして、課題の抽出や企画から、ECサイトの構築、運営、ブランディングまで一気通貫でサポートすることを開始している。同時に、同チームのスタッフが中心となり、和菓子専門のセレクトオンラインストア『旅するように和菓子と出逢う』を立ち上げた。事業としてスケールするだけではなく、そこで蓄積したノウハウをクライアントに還元する考えだ。

設立以来、“出会いを通じて豊かに生きる”という企業理念の下、“永遠の低成長”をテーマに掲げ、毎年5%の売上アップという適切な成長目標による、堅実な経営を続けてきた同社。営業面でも決して無理はせず、紹介と実績をベースに顧客を増やしてきた。今後は次世代への事業承継を視野に、“リアルとデジタルで顧客の販売促進の課題を解決できる会社”を目指す。

同社の平均年齢は36歳。20代から50代まで、均等なバランスで構成された会社だ。男女比もほぼ半々で、女性の活躍が目立つ。
近い将来、経営承継を考え、そのために経営チームを組成し、次代の経営候補者の選定を行っている小川氏だが、同社を後進に引き継ぐだけではなく、各事業部を独立させ、それぞれの分野で専門特化した強みを持つ企業となるよう発展させたい考えだ。

その構想を意識して取り組むのは次世代リーダーの育成と、人事制度や就業規則の再構築である。2022年度に変更した人事制度では個人の成果が正しく評価され、昇格・昇給にもきちんと反映される仕組みに改善した。同時に評価者であるマネージャー層の研修を行い、育児や介護等と仕事の両立ができるよう、社内広報や相談窓口も整備した。さらに残業時間の削減、社内環境の改善、健康経営の充実、教育体制の整備等も進めている。

「社員にはこの会社で働いて良かったと思ってもらいたい。そのためには会社が目指しているビジョンを常に明確にし、直接語り掛けることが重要だと考えています。そのため定期的に拠点を回り、当社が目指す姿をまとめた資料を作って説明して回っています。具体的な目標として社員の所得水準を改善し、働きがいのある、誰にでも誇れる会社にしたいと考えています」（小川氏）。

以上のように、働きがいと働きやすさが両立し、若い世代が長く働ける環境を整備する一方で、小川氏が自社の社員に求めることは“中小企業ならではのやりがい”を理解して働くことだ。中小企業基本法の定義に従えば、資本金1億円、社員数約150名の同社は、製造業ととらえれば中小企業に入るし、サービス業ととらえれば大企業に分類される。しかし広告制作業には製造業、サービス業、両方の要素を兼ね備えることから、小川氏は自社を「中堅企業」と定義付け、その魅力を次のように語る。

「まず、社員のアイデアからビジネスが生まれ、その成果を社員が実感できることです。和菓子のECサイトやSaaSサービスは社員の発想から誕生し、その事業化をアイデアを出した社員が責任者として進めています。次に、プロジェクトの規模は小さくても業務の幅が広いので、多くの経験を積めるので、若くして力が付きます。三つ目は、自分の力で組織を作り、人を動かし、自己存在感が得られます。四つ目は、会社の仕組み作りから参加することが可能で、経営者としての視点も獲得できます。そして、若いうちからマネジメント経験が積めることで、自身の市場価値も向上します。こういったことがつらいと思う人もいるかもしれませんが、若いうちから幅広い経験が積めることを、ポジティブにとらえることができたら、当社のような中堅企業は良いことずくめです。この良さが理解できる人と仕事ができることを願っています」（小川氏）。

小川氏いわく、転職を重ねながらキャリアを積むことが当たり前という価値観が広がる中、「会社や仕事は人との出会いの場だと思い、続けるうちに好きになっていくという気持ちで入ってきてほしい」と語る。そうすることで、やがて“天職”という天から与えられた職業に出会えるはずだと。穏やかで世話好きな人物が揃う企業風土も魅力の一つ。企業理念に掲げる通り、豊かな人生を形作る出会いがここにはある。